「親のせい」があれば、同じ分だけ「親のおかげ」もある
M子 あー、それは自覚があります。パートナーとは、言葉のスキルに差がありすぎてケンカにならないんですよね。早々に相手が戦意喪失しちゃう。まあさすがに仕事関係では出さないようにしてますけど。……いやわかんないな、出てるかもしれないな。
根本 まわりの人にインタビューしたら「M子は怖い、あいつは口が立つ」って思ってる可能性もありますよね。「反論すると超めんどくさい」とか。
M子 うん、あると思います(笑)。少なくとも近しい人にはもうバレてる気がする。
根本 ま、バレてますね。そういう言語能力の高さを、お母さんと対峙してきたことで磨かれたスキルと捉えれば、それは「恩恵」の一つですよね。ほかにも、本当は働きたかったけれども結婚して家庭に入った、そういうお母さんを見てきたからこそ、M子さんはやりたい仕事について経済的にも自立できた、というような見方もできるし。こういうのを、僕らは「ネガとポジは同じ量」って表現するんです。
M子 同じ量?
根本 母親との関係でネガティブなものが100個あったら、ポジティブなものも100個ある、というようなイメージですね。
M子 なるほどー。
根本 でもネガティブなほうばかり見ていたら、ポジティブなものは一つも見えない。なのでそういう状態の人には、僕は「そういうお母さんだったからこそ、あなたが得たものはなんですか?」って質問するんです。
M子 ああ、それは思い当たることがあります。また昔の話になっちゃうんですけど、私、母からずっとこれといった理由もなく怒られてきたんですね。いつもいきなり怒鳴られて、何がいけないのか聞いてもまともな答えは返ってこなくて、結局分からずじまい。そんな感じなので、小さい頃は「そんなに私のことが嫌いなら産まなければよかったのに」って思ってました。
思春期に入ってからもそうです。たとえば、中学の時に私が部活から帰ってきて「お腹すいた、何か食べるものないの」って言うとするでしょ? すると母は決まって「あんたは女なんだから、自分でなんでも用意しなさい」って言うんです。で、私は言われた通り自分で用意する。しばらくすると兄も帰ってきて「お腹すいた、お前何食べてんの?」と聞いてくる。そこで私が「冷蔵庫にあるから、自分で用意して食べなよ」とかって返すと、突然母がキレるんです。「あんたは自分一人だけ食べて、なんでお兄ちゃんの分も用意してあげないの!」って。もう意味がわからないでしょう?
多分、母の中では「私ならやってあげるのに、M子はやってあげない。ムカつく」っていうのが、怒る理由として成立しちゃってるんですよね。私からしたら「私はあなたじゃないんだけど?」って感じなんですけど。こういう理不尽ばっかりだったんです。だからなのか、昔から、相手が何を言っているかわからない状態っていうのがすごく嫌なんです。
根本 はいはい、何でもはっきりさせたいというね。
M子 そうなんです。曖昧な表現が苦手で、ちゃんと整理して説明したいし、なんなら文章で残したい。「そんなこと言ったっけ、忘れた」って言われないために。そういう欲求は今の仕事にも繋がっているし、間違いなく母親の影響はあるなあって思います。
根本 仕事だけでなく、どんなことでもそうで。「親のせいで」って思うことはいっぱいあるんだけど、一方で「親のおかげで」っていうこともいっぱいあるんです。そして「おかげ」の部分はその人の才能や得意分野に出ることが多いのですが、親からの影響って本人の中では“当たり前”になっているので、なかなか気づくことができないんですよ。
ネガティブなものが一つあれば、必ず同じだけポジティブなものもある、という視点で自分の人生を見ていくといいですね。そうやって、今まで目を向けてこなかったポジティブを探していくと、あるタイミングで「まあ、いっか」って思えるようになったりするんです。
<つづく>
イラスト/Shutterstock
構成/山崎恵
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