『猫が教えてくれたこと』
監督:ジェイダ・トルトン
配給:アンプラグド シネスイッチ銀座ほかにて公開中
©2016 Nine Cats LLC


かわいい猫が登場する映画には、ついつい点数が甘くなってしまうこと、ありますよね。
トルコ映画『猫が教えてくれたこと』は、全編にキャラ立ちした愛らしい猫ばかりを拝める作品。アメリカで公開された外国語ドキュメンタリー映画として歴代3位の成績を記録したというのもうなずける、最高の猫映画です。癒されるだけではなく、猫と人、猫と街の数だけいくつものストーリーがあるのだなぁと思わせてくれる、見応えのあるドキュメンタリーになっています。

 

舞台となっているのは、古くから猫の街として知られる(オスマン帝国の頃に貨物船に乗ってやって来たと言われれているそう)イスタンブール。街角で一匹の猫がエサをもらい、屋外に入りたい素振りを見せれば誰かがさっとドアを開けてくれる。そんな冒頭のシーンから、猫と人の阿吽の呼吸がかなえられている街であることが、すぐに伝わってきます。

母になってからハンターになった猫。レストランに出没するネズミを退治する猫。デリカテッセンで行儀よく食事にありつく猫。そんなそれぞれのライフスタイル(!?)を追いかけながら、メス猫にメロメロになって丁寧にブラッシングしてあげるおじさんや、ある出来事から猫を神様のように大切にするようになった漁師、傷ついた心を抱える日々のなかで猫に救われた人たちなど、猫と人がお互いを補完するような理想の関係が描かれています。

 

監督はトルコで子ども時代を過ごし、高校時代にニューヨークへと移り住んだというジェイダ・トルトン。監督自身が言葉を寄せているように、これはまさに「猫たちとイスタンブールへのラブレター」。地上10センチで撮影された映像は、猫目線でイスタンブールの街を散歩するような楽しさを感じさせてくれます。かと思えばドローンで撮影したシーンには、こんな高いところにまで猫が!? という驚きも。こんな風に野良猫たちが自由に暮らすためには、エサや避妊手術のことなど、難しい問題もあるかもしれません。けれども街と人と猫とがとけあうような風景が広がるこの映画には、共生への望みがあるように感じました。 

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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