日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは前回の続き、「メイ・ザ・らめ活・ビー・ウィズ・ミー〈後編〉」です。理想のお部屋探しの顛末はいかに。
「あ、お金ないやん」
貯金が1円もないのにあらゆる理由でモーニングルーティン動画のオファーが来ても全く動じないような部屋に住みたくなり、すてきなお部屋を内見して、住む気満々で初期費用の見積書を出してもらいに不動産屋さんの事務所に戻り、見積書に書いてある40万円という金額を見て、一瞬で現実世界に引き戻された私はしばらく真顔で静止。不動産屋さんは何か初期費用の内訳に関して私が物言いたげだと感じたのか「あ、この金額はもう少しお安くできるかもしれません、これは分割払いもできます」と慌てた感じで値下げの交渉をしてくれようとしているけれど、そのくらいの値下げは私にとっては虚無と同義で、どれだけ交渉しようと初期費用がゼロになるわけではないわけで、わたしの預貯金はゼロ。かろうじて口座が開設されているだけで、そこは虚無と化していて、早くなんか入れろー、ねじでもいいからなんか入れろーと訴えている。
「ちょっと、改めて、検討させて、いただきますね」
そう小さく呟いて不動産屋さんをふらふらと後にして、安住の自宅に帰宅した。初期費用って高いねんな、それプラス引っ越し料金とか、今の家を引き払うときだってお金って必要なんやろ、そしたら総額いくら必要なんやろう。みんなどうやって貯金してるんやろう。ああ、私はどうしてこんなにいつもお金ないんやろう。何に使ってるんやろう。食費やな。その時食べたいもんをたらふく食べてしまう食費やな。この何ヵ月か演劇やライブの稽古と本番とドラマの撮影の日々で家で料理する気力がもうこれっぽちも残っていなくて、外食で1回2000円ぐらい使ってたもんな。あと、パソコンの調子が悪くて、初めてスマホから確定申告したら収入が2倍の金額を申告してしまっていて、年の前半の出費がえぐかったからやな。心当たりはありすぎるほどある。まずは生活をもう一度取り戻そう。あのユーチューブチャンネルに出演している豊かな生活をしている方々を見習って、料理も洗濯も掃除もちゃんとしよう。常備菜も作ろう、お出汁もちゃんととろう、本来料理大好きやったやん。まずは本来を取り戻そう。全てはそこからや。
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