原宿の一軒家レストラン「eatrip」を主宰し、フードディレクターとして活躍している野村友里さん。店を主宰するほか、食の体験型イベントを開催するなど、自由な「食」の表現者として注目されている。カーサ ブルータスの人気連載をまとめたレシピ集『春夏秋冬 おいしい手帖』を上梓した野村さんに、和食の楽しみ方を伺った。

野村友里 フードクリエイティブチーム〈eatrip〉主宰。ケータリングやTVドラマ、CMのフードディレクションなど、多岐にわたる活動を通して食の可能性と愉しさを伝えている。


そのときにしか味わえないものや
季節ならではの演出を楽しむ


『春夏秋冬 おいしい手帖』は4年に亘る連載をまとめたもの。野村さんの食への敏感な意識が感じ取られる、旬の食材を使った四季折々の和食が掲載されている。ときに力強く、そして繊細な料理や食材たちは、最も「いい顔」で切り取られ、ページをめくるたびに幸福感に包まれる。アートブックとしても楽しめる美しい一冊だ。

原宿の裏路地にたたずむ「eatrip」。緑に囲まれ、風が通り抜ける「気」のいい場所だ。店内にはフラワーショップも併設。

「日本には四季があって、そのときにしか味わえない食材や、その季節だからこその料理法があります。例えば、冬はふわりと湯気の立つあたたかな鍋、夏は食欲を呼び覚ます涼やかな一皿を。季節の変わり目には、走りのものと名残りの食材を合わせて、一皿に仕立てたり。また寒い季節には雪見仕立てのお椀があったり、暑くなったら涼を感じるガラスに盛りつけるなど、盛りつけ方や器でも季節感を演出できる。和食って遊び心に満ち溢れていて、実はとても楽しいのです」
野村さんはお母さまも料理上手。人をもてなすことが大好きで、いつもお客さまが絶えないにぎやかな家に育ったという。
「『おもてなし』というと、急に敷居が高くなって尻込みしますよね(笑)。でも、例えば暑い夏にはレモンを絞った冷たいお水をお出しするとか、料理も松花弁当のように盛りつけるとか、ほんの小さな心づかいや遊び心があればいいと思います。白いご飯も型で抜いたらちょっと特別になるし、季節によってその型を桜にしたり、客人ゆかりのものにする。そういうささやかなことでも喜んでいただけますし、それがきっかけで話も膨らみます。隙のない『おもてなし』より、招く方への気持ちが伝わったり、寛いでいただいたほうが楽しいし、お客さまをおもてなしするとは、そういうことだと感じます」


料理は人と人とをつなげる
コミュニケーションツール


「これを作ったらおいしく召し上がっていただけるかな」「喜んでいただけるかしら」と相手の顔を思いながら料理をしたり、器やしつらえを考えるのは楽しいこと。その考え方は、茶道にも通じている。

同じ考え方を共有している仲間たちとお店を始めて5年。人とのつながりが「店」という形になったという。

「母は茶道を嗜んでいたので、その影響を受けているかな。でも子どものころの私はルールが嫌いで、母は教えたがり(笑)。「もういいよ」って思うこともあったのですが、大人になるに従って、母の教えがとても役に立つことに気づきました。知らないより知っていたほうが逆に自由度が広がり楽しめることが多くて、年月ともに感謝の気持ちへ変わってきました。また、母は『主婦』であることにプライドを持っている人。お客さまが多い家でしたが、海外からの方も含めて、家でもてなすことにこだわっていたように思います。それはいいレストランにお連れするより、自宅に招いたほうが、お互いの距離が近くなることを知っていたからだと思います。母はそうしてお招きした方たちと、いまだに手紙のやり取りをしているんですね。そういうことを見ていると、料理はコミュニケーションツールでもあるんだなと。もう会えないかも知れないけど、いろいろな国にそういう友人がいて、つながっていることは豊かなことだなと思います」

後編は2月23日(金)公開予定です。お楽しみに!
 

 

『春夏秋冬 おいしい手帖』
野村友里 著 マガジンハウス刊 2900円(税別)

野村友里が作る、母たちから受け継いだ日本のレシピ130。旬の素材と昔ながらの製法で調理された和食を、写真家・戎康友の視点で鮮やかに切り取る。『Casa BRUTUS』で4年続いた連載に新しい料理を多数加えた、完全保存版のレシピ本。

撮影/目黒智子 取材・文/内田いつ子
構成/川端里恵(編集部)