子供を産んでも、仕事を持つことが当たり前のフランス女性たち。彼女たちにはなぜか余裕がある。その理由は?『フランス人は3皿でもてなす フランス流 しまつで温かい暮らし』の著者ペレ信子さんにその秘密を聞きました。
 

「今夜のごはん何にしよう」と悩まない!


フランス人にとって、食べることは大事。家族や友人とテーブルを囲み、お喋りをしながら食事をする時間が、日常生活の中での一番の楽しみごとです。
でも、何もご馳走を食べているわけではないんです。たとえば、週末には鍋いっぱいの野菜スープを作ります。にんじん、玉ねぎ、じゃがいもなどの定番野菜に、キャベツやトマト、そのときにある野菜を入れて。残り野菜のしまつであると同時に、野菜補給のためのスープです。月・火・水・木……とウィークデイ4日間の夕食には、必ずこのスープが出てきます。お味噌汁みたいなもので、これがないとダメなんですって。

夫の実家でも毎晩、食卓の真ん中にスープの鍋を置き、みんなで取り分けて食べるスタイル。日によって、アルファベットのパスタを浮かべたり、残ったチーズを溶かしてみたり、牛乳や生クリームを加えたり。おばあちゃんは赤ワインをたらしながら食べていたなぁ。シンプルな味つけのスープだから、家族それぞれが好みでいただけるのです。

フランス人の平日の夕食は……まず野菜スープを食べて、食べ終わったらパンでぬぐってスープ皿をきれいにして。次にチーズやハムやサラダを食べる。で、デザートにりんごでもむけば、晩ごはん終了。うちの子たちもこれで大満足。
 

スープを温めるぐらいで、火を使わないですむから、とてもラクです。フランスの女性はほとんどが仕事を持っているので、平日の食事はこんなふうに簡単にすませて、ご馳走は週末に食べよう、ということ。メリハリの利いた、フランス人らしい合理的な考え方です。
 それにひきかえ、日本のお母さんたちは夕食にがんばり(がんばらされ)すぎているかもしれない。もうちょっとラクしてもいいよね、と思います。

 

 

週末の夜は少しがんばる。
メリハリが疲れないコツ


月・火・水・木の夕食は作りおきの野菜スープ。では、それ以外の食事でフランス人が何を食べているかというと……。
金曜日の夜は「明日は休みだから、ちょっとがんばろうかな」と、グラタンやキッシュを作ってみたり、ちょっと時間をかけておいしいものを用意します。土曜日は人を招いておもてなし。日曜日は家族でゆっくりと食事――というルーティンを、だいたいのフランス人が繰り返しています。

朝はパンにコーヒー程度。ちなみにフランスでは遠足のときなどに子どもに持たせるお弁当も、すっごく簡単です。パンにハムか何かをはさんだサンドイッチだけ、とか。だから日本に駐在するフランス人のママたちは、日本人のお弁当を見て驚いて、「どうしてあんなに凝ったものが作れるの? うちは可愛いお弁当は持たせられないわ」と言っています。


食べる以上に
コミュニケーションもとても大切


フランスでは昼休みが2時間ぐらいあって、お昼ごはんをわりとしっかり食べるんです。そして田舎では子どもたちが、お昼どきに家に帰ってきちゃう(!)。どうしてもというときは給食を頼むこともできますが、たいてい働いているお母さんも昼どきには家に戻って、みんなにごはんを食べさせるのです。考えるだけで大変ですよね。
 

夫の実家のお隣の家のママはフルタイムで働いていて、小学校や幼稚園に通う子どもが、なんと4人もいます。お昼どき、さすがにひとりでは子どもたちをピックアップできないので、学校と家との往復のためにベビーシッターを頼み、ベビーシッターも一緒にみんなでお昼ごはんを食べるんです。日本では考えられないことですが、そうまでしてでも、フランス人にとっては食事をしながら子どもたちと話す時間が大切なのです。
“しっかり食べる昼食”ですが、働くママにはもちろん、料理に手をかける時間の余裕はありません。だから、お肉をサッと焼くだけのステーキみたいなものが多いです。あとはサラダとパン。デザートにフルーツを食べさせて、子どもたちを学校へ帰す。

 


冷凍食品が、自分の時間、家族の時間を作るカギ


仕事を持つ今どきのフランス女性にとって、欠かせないのが冷凍食品です。彼女たちは「これがないと絶対に無理」と言っていて、週末の買い出しのときに冷凍食品をあれこれ買い揃えています。

鶏肉のフリカッセ、キッシュ、白身魚のグラタンなどのメインディッシュはもちろん、いんげん豆だけとかにんじんだけとか、つけ合わせに便利な単品野菜の冷凍食品もフランスでは豊富。中でも『ピカール』という冷凍食品ブランドが人気で、モアローショコラなど、ここのデザートはおもてなしに出せるぐらいのグレードの高さ。特にパリジェンヌは『ピカール』派。日本でも通販で買えたり、東京・青山をはじめ、今後出店が増えるようです。
 

外食をしない理由


パリのお金持ちの奥様には、行きつけのレストランがあったりします。「ランチはここに行くの」というお決まりの店があって、きちんとおしゃれをして、ひとりで昼食をとりに出かけていく。
一方、地方の普通のお母さんたちは、職場から急いで家に戻って、家族と一緒にお昼ごはんを食べます。家に帰れないときにしょうがないから外食、という感じで、日本のようにママ友たちでランチを楽しむ……なんていうことは皆無です。
というのも、高いんです。フランスは外食が。
日本は980円でお茶までつくランチメニューがあったりするけれど、パリでランチをしようとすると2000円は覚悟しないといけません。キッシュにサラダがついた簡単なワンプレートのようなごはんも、それくらいしちゃう(だからパリのレストランは外国人観光客でもっているようなものなんです)。

さらに外食事情について言えば、パリの三ツ星レストランなんて、普通の人が行ける値段じゃないです。ワインも飲んで二人で15万円ぐらいかかってしまう。一般の人が行けるとしたら、せいぜい一ツ星。地方のオーベルジュ(宿泊施設)がついているような高級レストランなら、東京の三ツ星ぐらいの値段で食べられるので、それでバカンスのときに「夏休みだから!」と思いきって行ってみるとか。「50歳になった記念に食事に行こう」とか。フランス人にとってレストランで食事をするのは、そのぐらい特別なことです。


日本人は外食にお金を使い過ぎ?


フランス人はいい意味でケチなのです。お金をムダに使わない。

高校生や大学生もお金がないから、集まるときは誰かの家で持ち寄りパーティをします。親たちも人をよく家に招くので、そういうことが当たり前なんですね。それに外では、せっかく盛り上がっても夜中の2時とか3時までいられないし(フランス人は宵っ張りです)、買えば10ユーロのワインが、お店で出てくると50ユーロになっている。だから「家だったら、もっとお金をかけずに楽しめるよね」という賢いケチの精神です。

夫の実家では、子どもの頃に夏休みに家族旅行をしても、絶対に外食はしなかったそうです。フランス東部のブザンソンの家から、車で2日間ぐらいかけて西部のブルターニュまで行く間、外食はいっさいしなかった、って。日本人ならファミレスみたいなところで食事をしがちですよね。ところが彼らは軽食をクーラーボックスに準備して、それを食べながら移動したり、途中でスーパーに寄って、パンとハムとチーズを買ってサンドイッチを作って食べたりするのだそう。外食代は節約して、ほかに使ったほうがいいという堅実派なのです。

一方、私の両親は旅行が好きで、「今度行くところには、おいしいお蕎麦屋さんがあるみたいだから行こう」なんていう話をしょっちゅうしています。それを聞いて夫が、「本当によく外食をするんだね」と驚いている。外食は楽しいけれど……でもちょっと、日本の私たちはお財布の紐がゆるすぎるのかもしれません。

ペレ信子(ぺれ・のぶこ)

1967年東京生まれ。
21歳でブルゴーニュ大学に留学後フランス企業に4年間勤務し、1993年26歳でフランス人と結婚。結婚後は、夫の仕事の関係でアメリカに住んだ2年をのぞき、日本で暮らす。
通訳、翻訳の仕事の傍ら、3人の子供を育てながら、2004年よりダニエル・マルタンにフランス料理を、丸山洋子にテーブルコーディネートを学ぶ。ダニエル・マルタンの依頼で著書『鍋ひとつでできるお手軽フレンチ』(サンマーク出版)の翻訳を担当。
2011年より東京・目白台にてサロンをオープン。気取らないおもてなしと、簡単な料理や器選びのコツなどを提案し、人気に。また、キッチンリフォーム会社のショールームや、器店など店舗のコーディネートをしたり、雑誌で食に関連のコメントをするなど幅広く活躍中。https://recevoir.exblog.jp/

 

『フランス人は3皿でもてなす フランス流 しまつで温かい暮らし』
ペレ信子 著 1400円(税別) 講談社

フランス人は、意外に質素で手抜き上手だった! 食やインテリアを通して、お金をかけずに生活が豊かになる暮らしの工夫を紹介。
著者はフランス人と結婚して23年。夫の家族やフランス人の友達から、フランス人のいいところを取り入れつつ、心地よい暮らしを模索し続けています。それは何も肩ひじ張るようなことではなく、気取りなく、そして案外質素なのに毎日が楽しく家族の幸せにつながるものでした。そんな暮らしを楽しむ工夫、食やインテリアを通して家族の絆が深まるちょっとしたコツ、簡単だけど少しだけ生活が豊かになる毎日の習慣を紹介します。

(この記事は2018年4月17日時点の情報です)
構成/ 白江亜古 撮影/嶋田礼奈(講談社)


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