なんでも某宅配ピザチェーンは空前の売り上げと小耳に挟みましたが、その他の飲食店はどこも苦しい状況に追い込まれていることはご存知の通り。もちろん、私の住む鎌倉も例外ではありません。

 

「インバウンド頼りや観光客相手のお店は打撃だけれど、地元の人に向き合っている飲食店はそこまで影響ないみたいねえ」なんていっていられたのは3月のはじめ頃まで。ほんの十日の間に景色は変わりました。営業を自粛するお店、テイクアウトを始めるお店、場所を貸し出すお店など、どこも対応に追われています。私はテイクアウトやデリバリーをなるべく利用して、自分で食べたものに限ってSNSで発信しています。微力ながら応援の気持ちを込めて。それぐらいしかできないのが歯がゆいです。

 

4月7日に7都府県に緊急事態宣言が出た翌日、イチリンハナレの料理長齋藤さんと電話で話しました。同店はお屋敷街の中の瀟洒な日本家屋というロケーションとモダンな中華料理の組み合わせで、地元の人だけでなく東京からフーディーたちが訪れる人気店です。

こちらはその4月7日から休業中。もう少し早いタイミングでの休業も選択肢にあったそうですが、予約のキャンセルはそれほど出ず、一つ前のフェーズでは店側からキャンセルを提案するのはむずかしかったとのこと。それでもお客と従業員との安全を考慮して、店側からお客側へ連絡を入れて休業へ踏み出しましたが、連絡が取れないケースもあり、そうなると店を開けざるを得ない。そして、それを聞きつけたキャンセル済みのお客からは閉めたのではないかと問い合わせが入ったりもしたといいます。こうした混乱も人気店ゆえかもしれません。食べ歩き好きとしては、せっかく取った予約をふいにしたくはないという気持ちはよくわかります。

イチリンハナレがテイクアウトを始めたらぜひ利用したいと伝えると、それについては迷っているとの返事でした。お客がいなくてもテイクアウトの作業をするには結局厨房に従業員を集めなければならない、そこでもし感染者が出たらと思うと怖いといいます。店を再開した暁にはすぐに駆けつける約束をして、電話を切りました。

日本料理 吟では、志村けんさんの訃報の後にキャンセルが相次いだそうです。あの訃報には私も本当に驚きました。きっと治るものと思っていたので。慣れ親しんだお茶の間の人気者の死は人々に「これは他人事ではない」という意識を植え付けました。謹んでご冥福をお祈りします。

吟は当初、予約が入った時だけ営業しておりましたが、地域の足並みは乱したくないので、他の店の状況を見つつ、ずいぶん悩んでいらっしゃいました。そうなんですよね、人は人、自分は自分、とはいえないのが今回の事態のむずかしいところ。4月14日からお店での営業は自粛し、お弁当や鯖寿司などのテイクアウトのみで営業しています。

 

お店が開いていればお客が行ってしまうし、お客が来るのなら店は開けたくはなる。当たり前です。
完全に自粛するお店も多い中、スタッフは休んで料理人一人で限定的に営業をする、もしくは予約が入った時だけ営業する場合もあれば、テイクアウトのみに舵を切った場合もあります。飲食店を営む人だって生活がある。テレワークはできない仕事です。そして、営業するためには仕入れをしなければならない=出費があるわけです。お客側にしてみれば、大好きなお店がコロナごときで廃業して欲しくないから、なんとか応援したいですし。

この悪循環を解決するのは、とにもかくにも国による「補償」だと私は思います。いや、みんなそう思っていますよね。店側が安心して客を迎え入れられるようになるまでの資金を補償して、不安なく営業を休めるようにするべき。そうしないと、人との接触8割減なんて夢のまた夢。こうしている間にも感染は広がっているでしょう。布マスク配るぐらいなら、現金を配って欲しい。使い道は各自で決めますから。これも、みんな思っていることですけれどね。

緊急事態宣言が出たタイミングの週末、天気も良かったせいか、鎌倉界隈の海沿いの道はかなり渋滞しておりました。鎌倉市役所はこの期に及んでも観光客が押し寄せることを懸念して(悲しいことにそういう人がいるんですよ)、市内の大きな駐車場をいくつか閉鎖しました。英断だと思ったのですが、それがかえって渋滞が引き起こしてしまったのかもしれません。もう、何が正解かわからない…。

海沿いではテラスもある人気店のいくつかは営業しており、店内もテラス席も満席。それを見たある飲食関係の方が「多くの店が涙を飲んで営業を自粛しているのに、これでいいのだろうか」と思ったそうです。やっぱりくやしいことでしょう。

いいレストランにかっこいいバー、くつろげるカフェなどなど、どのお店も潰れて欲しくない。夏になったら街の景色が変わっていた、なんてことは想像したくありません。

 

<書籍紹介>
『鎌倉だから、おいしい。』

甘糟りり子 著 集英社 定価1500円(税別)

『モーテル0467 鎌倉物語 』(小学館文庫)、『鎌倉の家』(河出書房新社)に続き、鎌倉を舞台にした作品としては三つ目。幼い頃から鎌倉で暮らす著者が愛してやまない鎌倉の美味しい店について綴ったエッセイ集です。
イチリンハナレ、オステリア・ジョイア、珊瑚礁 本店、ブラッスリー・シェ・アキ、天ぷら ひろみなど、名店の味とその周辺の人にまつわる美味しいエピソードにたくさん出会える1冊。

前回記事「「外出制限延長」のパリで見えてきたコロナ後の「希望ある社会」」はこちら>>