視界が制限されて混乱に陥る


下の図を例に話しましょう。

高齢入院患者の3割が発症!興奮や錯乱を起こす「せん妄」とは_img0
 

普段はこの黒い四角形の中の全てが見えているとした場合、せん妄の状態では、中心部の白い丸のところしか見えなくなってしまいます。

 

そうだとすると、どうでしょうか。周りが見えなくなり、不安や恐怖の気持ちが湧き上がってくるのが自然ではないでしょうか。人と集中して会話をするどころではなくなってしまうでしょう。ここから抜け出したいともがき暴れたい気持ちも湧き上がってくるかもしれません。

そのような感じで、普段は穏やかで会話も普通にできる人が、入院をきっかけに突然会話が噛み合わなくなってしまったり、急に暴れ出して暴力を振るってしまったりすることがあります。しかし、その人自身に悪意があるわけではありません。混乱してそのような状態に陥ってしまっているだけなのです。

ただでさえストレスがかかって視界が狭くなったところに加えて、病室ではカーテンに囲まれて光も入らない空間で、天井ばかりを眺めるという状況に置かれることも稀ではありません。物理的にも視界が狭くなり、時間の感覚もつかみづらくなります。検査や治療によって睡眠が中断されることもしばしばで、体内時計が狂ってしまうこともあります。

こうして、せん妄は起こるのです。


前回記事「医師が語る「治療可能な認知症」と、その意外な原因とは」はこちら>>


参考文献
1    Francis J. Delirium in older patients. J Am Geriatr Soc 1992; 40: 829–38.
 

構成/中川明紀
写真/shutterstock


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