人や物の名前が思い出せず、「あれ」「これ」「それ」で会話をしている。何の用事で席を立ったのか忘れてしまう。昨日食べた夕飯が思い出せない……。こんな「物忘れ」が続くと、「もしかして、認知症のはじまり?」と不安になってしまいますよね。
そこで、『「ボケたくない」という病』の著者であり、認知症のプロフェッショナルとして知られる老年精神科医の和田秀樹さんに、「物忘れ」と「認知症」の違いについて教えてもらいました。
「物忘れ」=「認知症の始まり」とはいえません
認知症による記憶障害と、加齢によってふえてくる「単なる物忘れ」は違いますから、「物忘れ」=「認知症の始まり」ではありません。
記憶障害は、認知症、とくにアルツハイマー型認知症の症状の代表的なものとして、よく知られています。そのため、ある程度の年齢になって物忘れが多くなると「もしかして認知症?」と不安になる人も多いようです。
しかし、「物忘れ」が必ずしも「認知症のはじまり」とは限りません。
記憶障害は認知症にはよく見られる症状ではありますが、その一方で、中高年になればだれでも記憶力が衰えてくるのは確かな事実です。
物の名前が思い出せず、会話の中に「あれ、これ、それ」の指示代名詞がふえたり、顔は思い浮かぶのにその人の名前が出てこなかったりするのは、だれもが経験することでしょう。このような状態は、「加齢による単なる物忘れ」であり、認知症ではありません。
そのほか、男性の場合、中高年以降に男性ホルモンがへってくると、物忘れが生じることは珍しくありません。また、うつ病になると記憶力が落ちることはよくある話です。これらの場合は、男性ホルモンの補充やうつ病の治療などで症状が改善します。
加齢とともに脳の機能が衰えて生じる年齢相応の物忘れと、認知症の記憶障害の違いは、どこにあるのか。
簡単にいうと、認知症初期の記憶障害は「覚えられない」で、中高年の記憶力の衰えは「思い出せない」。この違いです。
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