女性アスリートなどが注目されはじめた時、メディアが昔からよく使うのが「美人◯◯」「美人すぎる」という表現。なぜ、あえて彼女たちの見た目に言及するのだろう、と違和感を覚えたり、疑問を感じたことはないでしょうか。この違和感や疑問の声は昨今、「美人◯◯」と言っていたメディア自身が取り上げることも多くなり、社会の意識が少しずつ変わってきているのを感じます。
女性は能力だけではなく、見た目で判断されやすい。メディアの中だけではなく、日常でも感じたことはないでしょうか。

女としての生きづらさを日々感じている女性と、彼女の「運命の男」と称するナゾの男性のストーリー『ジーンブライド』。一瞬「ジューンブライド」? と読み違えてしまいそうな不思議なタイトルです。ジーンとは遺伝子(gene)の意味。「遺伝子の結婚」? いったいどういうことなのでしょう。

『ジーンブライド』 1 (フィールコミックス FCswing)

エンタメ系メディアのライター・諫早依知(いさはや いち)が映画監督にインタビューをしています。依知が監督の最新作の印象的なシーンについて質問しようとすると、監督は目尻を下げながら、依知自身に関する質問をしてきます。
「君 最近仕事はじめたの?」

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

へえ! いやー こんな綺麗な方初めて見たからさあ

この言葉に依知はまったく反応を示さず、作品の話に戻す。
インタビューの最後、感謝の言葉を伝えると、監督は言う。

も〜〜 褒めすぎ 褒めすぎ

そんなに褒められると 男はみんな勘違いしちゃうよ?
君も気をつけないとさあ

⋯⋯インタビュー帰りでの、依知の一言。 

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

依知は、こんなふうに取材相手のセクハラ発言や、ランニング時に遭遇する変質者の存在に、毎日毎日「新鮮に絶望」していました。

 

そんなある時、彼女の職場に訪れたアプリ会社の社員の一人が、突拍子もないことを言い出します。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

僕は正木蒔人 きみの運命の相手だった男だ

通報案件? と思いきや、焦った彼は、あくまで「ジーンブライド」での話で、と言う。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

蒔人は昔の学生証を依知に見せ、元・同級生だと伝えました。でも依知の方は全然覚えていません。
でも、「ジーンブライド」という言葉は、2人が通っていた「秀光館学園」以外では聞いたことがない、と依知は言います。蒔人はチョコを持ってきていました。

①チョコレート
②ジーンブライド
③正木蒔人(ボク)

が彼のことを思い出すキーらしいのですが、どうしても思い出せませんでした。
けれど、その夜に、依知は秀光館学園時代のことを夢に見ます。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

「ライフプランを考えてみましょう」と書かれた用紙。「ジーンブライドパーティ」という合同結婚式のようなイベント。そして、「いっちゃん」と呼ぶロングヘアーの同級生の女子。

はっと目を覚ますと、依知は汗をかいていました。

休みの日、監督からもらった招待券で試写会に訪れると、蒔人と遭遇します。先日、依知の職場に訪問した際に、依知の上司が券を渡したのだそう。

試写会でじんわり感動した後、仕事モードに切り替えた依知が、監督に声をかけると、また外見のことを言われます。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

「もしかしてこれセクハラになっちゃうかな〜?」
作り笑顔で黙っていると、すかさず横槍を入れてくる蒔人。助けに来たのかと思いきや、単に彼も監督のファンらしい。早口で感想を伝えまくっています。

印象に残ったシーンについて蒔人が語った時、依知は目を見開きます。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

オマージュの話は、自分がこないだのインタビューで伝えたことと同じ内容だった。
わたしも気づいて監督に伝えたのに、あの時はこんな反応じゃなかった。

監督が蒔人の言葉に喜んで、笑顔を見せている。

(C)高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

どうして あたしは そのお顔を引き出せなかったんでしょう

監督は依知の顔や、スタイル、服装にしか目がいってなかった。
ひっそりと絶望する依知。

帰りのタクシーで彼女に「きみはただひとり僕を教室に引き止めてくれた人間だった」と感謝する蒔人。その理由は、2人が通っていた学園での「ジーンブライド」に関することでした⋯⋯。

本作のテーマの1つは、女の生きづらさ。作中では女性議員も増え、自由な体型・髪型を謳歌する女性が多い世界のようなのですが、依知は仕事相手にセクハラを受け続けています。また、ランニング中に変質者につきまとわれていることを、同じ女性である上司は憤慨して通報してくれますが、電話の向こうの警察は取り合ってくれない。「日々の生活がおびやかされている」この感覚に共感を覚える方も多いのではないでしょうか。

そしてもう1つはタイトルの「ジーンブライド」。「遺伝子の結婚」という意味でしょうか。どうやら遺伝子同士をマッチングさせるイベントだというのが回想や発言の端々からなんとなくわかります。が、1巻では断片的にシーンが出るのみで、詳細は不明。
1巻のラストでは「も、もしかして⋯⋯!」という、ある予感がよぎります。

どうやら、女の生きづらさを描くだけではなさそうな本作。近未来SF的な要素が2巻以降、さらに強まりそうな予感です!

 


【漫画】『ジーンブライド』第1話を試し読み!
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『ジーンブライド』
高野ひと深 (著)

仕事相手からのセクハラにも、変質者との遭遇、女であるゆえの生きづらさに、 日々「新鮮に絶望」している諫早依知。そんな彼女の元へ、元同級生の正木蒔人が突然会いに来た。 15年前の出来事のお礼に来たと言う彼を依知は警戒するが、 独特なペースで生きる蒔人は依知を全くおびやかさない。


作者プロフィール

高野ひと深
2015年に『フラッシュノイズ』(リブレ出版)でデビュー。2016年から連載していた『私の少年』(講談社)が「このマンガがすごい!2017」(宝島社)で第2位を受賞。現在は「フィールヤング」(祥伝社)にて『ジーンブライド』を連載中。
Twitterアカウント:@tknht3

 



構成/大槻由実子