情報統制が強まるロシアでは、反戦を訴える娘世代とプーチン大統領を支持する親世代の情報格差と断絶が生まれつつあります。トランプ政権下も同じような軋轢が起こっていたと言います。日本でも、男性中心社会で生きてきた”保守的な”親世代との価値観や認識の差に悩む人は少なくありません。

社会派ライター渥美志保とミモレ編集部のバタやんがニュースなキーワードを掘り下げる連載。NHKで社会福祉の番組を多く手掛ける浅田環ディレクターに、人の価値に優劣をつける「優生思想」について学ぶ第3弾は、世代間ギャップをどう埋める? を伺います。
 

当事者不在の「女性活躍」「女性が輝く社会」のスローガンにモヤっとする


渥美志保(以下、アツミ):誰が価値が高くて、誰が価値が低いと決めつける「優生思想」による差別って、男社会における女性や性的マイノリティ差別と通じるものを感じます。例えば杉田水脈議員の「子供を産まない女性や同性愛者は『生産性が低い』」というあの発言は、まさに優生思想ですよね。

 

浅田環さん(以下、浅田):そうですね。

 

アツミ:こういう差別を変えてゆく方法ってあるんでしょうか?

浅田:絶対的に必要なのは「nothing about us without us(私たち抜きで私たちのことを決めないで)」ということ。これは国連で2006年に採択された「障害者権利条約」を作る過程で大切にされた言葉ですが、結局はこれにつきるんだと思います。ナチスも、相模原障害者殺傷事件も、旧優生保護法も、ジェンダーの問題も。自分たちのことを自分たち抜きで決められる状況こそが危険なんです。

アツミ:そういえば一昨年話題になったアフターピルの市販に反対する、日本産婦人科医会の会見に並んでいるのがおじさんだらけなのを見て、ひっくり返りました。

アフターピル(経口中絶薬)の市販に産婦人科医会が反対
避妊の失敗や性暴力被害など望まない妊娠を回避する緊急避妊薬(アフターピル)について「医師の処方箋がなくても薬局でも買えるようにすべき」という要望が盛り上がりを見せています。海外では薬局で購入できる国や無料でもらえる国もあるアフターピルですが、日本では産婦人科等で医師の診察を受けなくてはなりません。議論の高まりを受けて、2020年日本産婦人科医会は記者会見を開き、反対意見を表明しました。

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浅田:そういうことですよね。当事者ではない人が、圧倒的に発言権があるっていう。女性活躍のスローガン「女性が輝く」だって、「私、輝きたいです!」なんて言ってる女性にあんまり会ったことないじゃないですか。女性は当然の権利としてどんなジェンダーの人も平等に尊重されるべきだと考えているだけです。当事者不在、もしくは当事者の立場が弱い議論の場で、権力を持つ男性たちが「女性に優しい俺たちが、女性のために!」とかじゃなく、フラットに考え議論できるメンバーがほしいです。

編集・川端里恵(以下、バタ):ほんとですねえ。当事者でないと発言してはいけないということではなく、発言権がある人に偏りがあるんじゃないかと。

浅田:そのためには議論の場を多様にしていくことだと思っています。まずは政治ですよね。「声の大きい力のある多数派」に託すだけではなく、障害福祉、ジェンダー平等、子供・教育支援など、自分が重視する政策に取り組む当事者の議員を推して政治に関心を持ち続けるというような方向に、投票行動を変えていくべきだと思っています。