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『オートクチュール』 © 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

フランス映画にもいろいろなタイプがあると思いますが、霞がかったような映像の作品が多いなという印象を持っています。
今回ご紹介する『オートクチュール』も、照明にこだわりを感じる美しい映像が堪能できる作品。パリのモンテーニュ通りにあるディオールのオートクチュール部門のアトリエを舞台に、裏方であるお針子の物語が描かれています。

 

主人公はもうすぐ引退するお針子のエステル。
最後のコレクションを目前に忙しい毎日を送っていたある日、地下鉄の通路でバッグをひったくられてしまいます。彼女のバッグを盗んだのは、郊外の団地に住むジャド。
エステルはジャドを警察に突き出さず、通路でギターを弾いていたジャドの指先の動きにお針子の才能を見出し、自分の後継者としてアトリエにスカウトします。

 

ひと目見ただけで素質がわかるなんて少し大袈裟かなとも思いましたが、行き着くところまで行った本当のプロフェッショナルはそういった目利きがあるんだなあとも。そして、ふてくされたような顔のジャドが抱えている事情や優しさが見えてくると、だんだん彼女のことが愛おしくなってきました。
家に帰ると鬱病だという母親が待っていて、ジャドはずっと面倒を見ています。
叩かれたりすることはないけれど母親は娘に頼りきりで、ネグレクトともいえる状態。
ジャドは貧しいなかでも同じ団地に住む友だちと協力しながら、必死で生きてきた女の子なのです。

 

アトリエ内で描かれるジャドの恋愛はちょっとありきたりでしたが、お針子さんたちとのドラマは見応えがありました。
同じ郊外出身で優しくサポートしてくれる人もいれば、ジャドのことが気に食わず手にわざと針を刺す意地悪な人も。フランス映画にも、上履きに画鋲を入れる、みたいな描写があるんですね(笑)。

エステルはときどきジャドと衝突しながらも、お針子の精神と技術、伝統を伝えようとします。
ひとつ気になったのは、エステルのような情熱を持っているお針子が、あまり裕福ではなさそうなこと。彼女たちがいないと素晴らしいドレスは生まれないのだから、十分な報酬を払ってほしいと感じてしまいました。
『ドクターX』の大門未知子は一度手術をすると、晶さん(医師紹介所の所長)が何千万という請求書を提出するのですが、その場面を見て外科医になりたいと思った、という声が届くこともあって。
もちろん金額がすべてではないのですが、あらゆる分野でプロフェッショナルな人のやる気に甘えるのはよくないことなのでは、と私は思っています。

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ドレスを作るための高級な生地やアトリエに流れる空気、お針子たちが着る白衣まで、ひとつひとつにリアリティと説得力が感じられたのも、この映画の大きな魅力。
美しいドレス、手仕事が継承される素晴らしさ、そして血は繋がっていないふたりの強い結びつき……。
たくさんの見どころが詰まっていて、最後まで飽きることなく観られるフランス映画です。

 

<映画情報>
『オートクチュール』

ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者であるエステルは、次のコレクションを終えたら退職する。準備に追われていたある朝、地下鉄で若い娘・ジャドにハンドバッグをひったくられてしまう。滑らかに動く指にドレスを縫い上げる才能を直感したエステルは、ジャドを見習いとしてアトリエに迎え入れる。反発しながらも、時に母娘のように、そして親友のように濃密な時間を過ごす二人だったが、最後のショーが一週間後に迫った朝、エステルが倒れてしまう。
ディオール専属クチュリエ―ル監修のもと、ディオールの初代”バー”ジャケットや重ねづけされたプリーツが軽やかに揺れる”フランシス・プーランク”ドレス、直筆のスケッチ画など、貴重なアーカイヴ作品の数々登場するのもみどころ。新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国公開中。
© 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

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