近年、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技としてとらえる「eスポーツ」が盛り上がりを見せています。海外では高額な賞金がかかった国際大会も開催され、プロのeスポーツ選手も多数存在しているほど。インターネットで繋がっていれば、年齢や性別、国籍を超えて誰もが参加できるとあって、今後も規模の拡大が見込まれています。そんな中、モーニングで今年5月から連載がスタートした『マタギガンナー』で、ひょんなことからeスポーツを始めることになったのは、元マタギで妻に先立たれた男性。マタギ×eスポーツという異色の組み合わせがユニークなのですが、本作の作画担当がスペイン人の漫画家フアン・アルバランさんというのも興味がわくところ。今回、特別にフアンさんにもお話をお伺いしました。

『マタギガンナー(1)』(モーニング KC)


妻に先立たれた元マタギ、ゲーム機を拾う。


秋田の山深い村に住む山野仁成は、マタギを引退して妻・益子に先立たれた後、一人暮らしをしていました。

 

亡き妻の四十九日法要の後、結婚して東京で暮らす娘・園子に、「一緒に暮らさない?」と誘われますが、にべもなく断る山野。マタギは引退したのですが、時折、狩猟は続けていました。

 

ある日、山野は都会から来た人間が家電を不法投棄する現場を目撃します。まだまだ使えそうな家電の中にあったのは、黒い箱状のもの。どうやらコンピューターゲームの本体のようです。持ち帰ってみたところ、本体のケーブルを自宅のテレビに接続することができたので、早速電源を入れてみます。電源は入ったものの、「インターネットに接続されていません」というエラーメッセージが出るのみ。そこで、山野は電器屋に修理の依頼をします。

 

故障ではなく、単にインターネットに接続されていないだけだったため、電器屋の青年がインターネット接続の手続きを行い、サービスでゲームの接続設定もしてくれたので、ようやくゲームを始めることができることに。本体には「ガンナーズ・トライブ」というソフトが入っていました。これは海外で人気のFPSゲーム(一人称視点のシューティングゲーム)ですが、山野にはそんなことはわかりません。名前を入力し、目鼻立ちや服装、武器などを選んでキャラクターの造形を自分で選ぶことができるのですが、ゲーム機を触るのが初めての山野にとっては苦労の連続。

 



2年後、元マタギは無双スナイパーになっていた!


やっとのことでふんどしとちょんまげ姿の謎キャラクターを完成させ、ゲームをスタートさせますが、キャラクターの動かし方すらわからない山野は開始直後に頭を撃たれてしまいます。山野は毎日コツコツとゲームに挑戦し、キャラクターを動かして逃げ回ってみたり、応戦してみるうちに、このゲームが、マタギが獲物の足音に耳をすませて撃つのと同じだということに気づきます。

 

それから2年、山野はゲームの中で凄腕スナイパーへと変貌を遂げていました。ゲームにはプレイヤー同士が会話できる機能があるのですが、英語が全くわからない山野は誰とも話をしないため、謎の存在と化していたのです。

 

孤独な一人暮らしと、マタギに通ずるところがあるFPSゲームとの相性は良かったようで、山野は暇つぶしとばかりにゲームをやり込んでいくので強くなる一方。ある日、同じゲームをプレイしていて、プロを目指す女子高生の白金高菜(しろかねたかな)が山野の家に押しかけてくるところから、山野の日常が大きく変わっていくことに――。

昔気質の孤独な元マタギと、eスポーツという意外性のある組み合わせの本作ですが、これがなかなかに面白くてグイグイと惹き込まれます。銃を持って相手の命を奪うというのはゲーム上でのことと思いがちですが、山野にとっては相手がゲームのキャラクターでも、人間を襲ってくる熊でも同じこと。何十年も野生の獣たちと向き合ってきた経験が、eスポーツでも生かされているという設定は説得力があります。また、山野本人は全く気づいていませんが、東京の女子高生とタッグを組み、スペインのプロチームと対戦できるのはインターネットでつながったゲームならではの醍醐味。元マタギの経験が世界でも通用するのかが気になるところです。


「日本の漫画を描くのが夢だった」作画のフアン・アルバランさん、きっかけはコロナ禍


そして、本作のもう一つの“意外性”といえば、この秋田の田舎を舞台にした本作を描いているのがスペイン人の漫画家であるということ。作画担当のフアン・アルバランさんは、幼少期から日本の漫画が大好きで、いつか日本の読者に向けて漫画を描くのが夢だったとのこと。

フアンさん(以下・フアン)「小さい頃、欧米よりも日本の漫画をよく読んでいて、私が覚えている最初の作品は『AKIRA』。スペインでもアニメが放送されていて爆発的な人気だった『ドラゴンボール』をはじめ、『タッチ』『クライング フリーマン』『北斗の拳』『らんま1/2』などがお気に入りでした。大人になってプロの漫画家になろうと思った時、英語が話せたことから、アメコミで作家活動を始めました」

アメコミで経験を積んできたフアンさんの転機は新型コロナウイルスの感染拡大。アメコミの制作が一時期中断された時に、「日本の漫画がどのように作られているかを学びたい」と考え、日本の漫画家のアシスタントになることを決意したのです。

 

フアン「1年間アシスタントをして、インターネットや翻訳ソフトのおかげで言葉の壁が問題にならないことに気づき、日本向けの作品を描く漫画家としてやっていこうと思いました。短編をいくつかの日本の出版社に送ってみたところ、当時のアシスタント先の漫画家・左藤真通さんの紹介でモーニング編集部につながり、『マタギガンナーを描いてみないか』と連絡をいただいたのです」

こうして、スペインに居ながらにして日本で週刊連載を始めることになったフアンさん。マタギのことはもちろん、田舎の住まいや食事、日常生活などはフアンさんにとって未知なるものばかりでした。

フアン「ストーリーを理解するために担当編集者が説明してくれたり、参考資料を提供してくれたりしますし、2人の日本人アシスタントにも助けられています。ただ、身振り手振りや感情の表現は日本人とスペイン人とでは違うこともあるので、間違ったポーズを描いてしまうこともありました。私は長年にわたって日本の文化に魅了されて多くのことを知っていたつもりでしたが、『マタギガンナー』を描くことが、新たな学びの連続になっています」

フアンさんは、秋田の伝統的なマタギという職業と、eスポーツについて、『敵と戦う気持ち』は同じと感じています。

フアン「マタギもeスポーツ選手も、彼らの仕事は競争であり、戦いです。マタギは獲物と戦い、eスポーツ選手は相手と戦う。マタギのほうが命がけだし、現実の動物は本当に危険ですが、敵と戦うという気持ちはどちらも同じです。原作の藤本正二さんが考えた『マタギガンナー』の話を初めて聞いたとき、山野が狩人としてのスキルをゲームに活かしてeスポーツ選手になるというのは、素晴らしいアイデアだと思いましたね」

9月22日に単行本1巻が発売されたばかりの本作。eスポーツという名前も知らないまま、ゲームをやりこんでいく山野はもちろんのこと、女子高生の高菜や、高菜がライバル視するスペインのプロゲーマー・キルキャットなど、魅力的なキャラクターが続々と登場し、手に汗握る展開となっています。

フアン「日本人ではない私が、日本の方々に向けて漫画を描くというのは珍しいことだとは思いますが、『マタギガンナー』を最高に楽しんでもらえるようベストを尽くします。まずは日本の読者の方々に、『マタギガンナー』読んでみていただき、そして楽しんでもらえたら嬉しいです。Thank you to everybody that has read Matagi Gunner so far!(今までも、これからも、『マタギガンナー』を読んでくださっているすべての人に感謝を申し上げます)」


藤本正二 (原作)ふじもと・しょうじ
第67回ちばてつや賞一般部門にて、『終電ちゃん』が入選を受賞。2015年から2020年まで、「モーニング」他にて『終電ちゃん』(全9巻)を連載。2022年「モーニング」にて『マタギガンナー』を連載開始。

Juan Albarran (作画)フアン・アルバラン
スペイン出身。2013年よりアメリカのDCコミックスで『Justice League』『Suicide Squad』などの制作に携わる。2020年以降、日本の漫画業界でアシスタントを経験しながら、2022年『マタギガンナー』にて初連載をスタート。

 

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『マタギガンナー』
原作:藤本正二、作画:Juan Albarran 講談社

元マタギ、FPSゲームで無双する!
孤独な田舎暮らしを営む元マタギ、山野仁成。一度は銃を置いたはずの彼が手にしたのは、“FPS”バトルロイヤルゲームだった!
最新鋭のeスポーツと、マタギの伝統技術が交わって生まれた異色のスナイパー。
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