生活習慣の見直しが認知症の発症率を低下


脳の老化は確かに40代後半から始まるようですが、友人はこのぐらいの年齢のうちから生活習慣を見直すことで、認知症の発症率を低下させられるとも言っていました。

完全な予防は難しいかもしれませんが、今のうちにできることはあるのでしょうか。また、認知症は遺伝するのでしょうか。


12のリスク回避で発症リスクを下げられる!?


4大認知症と呼ばれる「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」は、残念ながら現時点で根本的な治療法はありません。ですが相談者・千紘さんのご友人が言われたように、発症リスクを下げる方法はいくつかあります。

2020年、イギリスの医学雑誌『Lancet』において、生活習慣などを改善することで、認知症の発症リスクを40%下げられるという研究が発表されました。

リスクを高める要因は6割が未解明とされていますが、残り4割には「難聴」「教育歴」「喫煙」「社会的孤立」「抑うつ」「高血圧」「運動不足」「肥満」「糖尿病」「過剰飲酒」などの12項目が挙がっています。

その12の要因をすべてなくすことができれば、発症リスクは4割減。肥満、喫煙、運動不足を意識して、肉や野菜や魚を偏らずに食べること、塩分を摂りすぎないことなどが、結果的に認知症予防につながると言えます。

 
 

40歳過ぎたら食事の改善を


近年、高齢化や食生活の変化により、高血圧や糖尿病、動脈硬化が進行している方が増加しています。中でも糖尿病は、肥満やストレスが引き金となり、予備軍を含めて40代から急増している病。高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防が、そのまま認知症の予防にもつながるわけですから、常日頃からバランスの取れた食事を心がけたいものです。

農林水産省と厚生労働省が策定した「食事バランスガイド」では、1日に「何を」「どれだけ」食べたら良いかの目安が、分かりやすくイラスト化されています。これらを参考に、栄養バランスの良い食事を心がけてください。


認知機能の低下を気軽にチェック


認知症は、発症までに2つの段階があると言われています。1つは、自分自身でもの忘れは感じるものの、日常生活や仕事に支障をきたすことはなく、周囲にも気づかれない状態(SCD)。そしてもう1つが、周囲の人も変化に気づく「軽度認知障害(MCI)」です。多くの人が、MCIの次の段階(「軽度認知症」の終わり頃)で診断を受けますが、実はMCIの時点で生活習慣の改善などを行えば、年間16~41%が回復することが認められるようになってきました。つまり、認知症は早期発見が重要にも関わらず、多くの人が診断を受けるタイミングが遅いのです。

たとえ親に認知症の兆候が表れていたとしても、バタバタとした年末年始の帰省のタイミングで気づくのは難しいかもしれません。また、気づいたところで病院に行こうと言いづらい方もいるでしょう。そこでお勧めしたいのが、認知機能の低下をWebなどで気軽にチェックできるツールです。

東京都福祉保健局が運営する「とうきょう認知症ナビ」には、自分でできる認知症の気づきチェックリストが載っています。認知症の基礎知識や相談窓口、予防につながる習慣なども紹介されているので、東京都以外の方も参考にしてみてください。

また、東京大学などの研究グループが立ち上げた「J-TRC」では、50〜85歳の方を対象にした無料の認知症チェックを行っています。3カ月に1度のペースで認知機能テストを行うことで、定期的に認知機能をチェックします。

女性に多いアルツハイマー型認知症


では、認知症の発症に男女差はあるのでしょうか。アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも女性の発症率が高いと言われています。理由は女性の方が長生きし、患者の絶対数として多くなるため。

また、女性は閉経以降に女性ホルモンであるエストロゲン(記憶や学習に関連した神経伝達物質)が低下し、そのことが影響しているとも言われています。

アルツハイマー型認知症は遺伝する!?


最後に、今回の相談者・千紘さん姉妹が心配している遺伝についてです。アルツハイマー型認知症は、遺伝が関係する「家族性アルツハイマー型認知症」が約10%、遺伝は関係しない「孤発性アルツハイマー型認知症」が約90%と言われています。

遺伝性がある家族性アルツハイマー病は、両親のどちらかが家族性アルツハイマー病であった場合、子どもは2分の1の確率でアルツハイマー病になると言われています。ですが、その多くは40~60代の初老期にある方が多いことから、若年性認知症(若年性アルツハイマー)に該当すると思われます。

10%の家族性アルツハイマー型認知症のうち、2分の1の確率ということは、全体の5%が遺伝によるもの。よって千紘さん姉妹が遺伝を心配する必要はそこまでありません。

認知症予防の研究は急速に進んでいるため、10年前の知識はアップデートが必要です。2019年に政府がまとめた「認知症施策推進大綱」では、今後は「共生」と「予防」の2軸で施策を推進していくとされており、認知症は予防を考える時代になってきているのです。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

 


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