1万円札より1000円札10枚のほうがすぐに使っちゃうのなぜ?

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ニューヨーク大学の研究チームが、こんな実験を行なっています。

実験に協力してくれる学生を2つのグループに分け、一方には25セント硬貨4枚(1ドル)、もう一方のグループには1ドル札を1枚与えました。そして、それぞれのグループに「お菓子を買ってもいい(買わなくても可)」という指示を出します。

すると、25セント硬貨を渡されたグループのうち、63パーセントの人がお菓子を購入。しかし、1ドル札のグループでは26パーセントの人しか、お菓子を買いませんでした。

 

研究チームがこの実験で確かめようとしていたのは、「額面効果(Denomination effect)」と呼ばれる認知バイアスです。これは、人は小さい額面の紙幣や硬貨だとお金を気軽に多く使ってしまい、額面が大きい紙幣だと慎重になり、使う額が減るという傾向。

わたしたちの脳は、額が同じ1万円でも1万円札1枚と1000円札10枚では直感的に1万円札の価値が高いととらえ、貴重に感じるのです。

もし、あなたが無駄遣いを減らしたいと考えているなら、財布のなかに高額紙幣だけを入れるよう心がけると、無意識のうちに崩したくないという心理が働き、無駄な消費を踏みとどまれる確率が上がります。

逆に「額面効果」の働きをよく理解しているのが、カジノやゲームセンターです。海外のカジノでも、国内のゲームセンターでも、遊ぶためには紙幣や硬貨を店舗オリジナルのチップやコインに交換する必要があります。

カフェで5ドルのカフェラテを買うのを「高いかな⋯⋯」と迷う金銭感覚のもち主でも、プラスチックのチップを手にしてギャンブラーになった途端、ゲーム感覚で出費を増やしてしまうのです。

これはカジノのチップやゲームセンターのコインを使うとき、紙幣を店員さんに手渡すような「お金を使っている現実感」が乏しいから。お金を失った痛みがなく、我に返ったときには想像以上の金額が出ていってしまうのです。

同じ心理は、クレジットカードや電子マネーでの買いものにも当てはまります。とくにスマートフォンと一体化した決済システムは危険です。

たしかに、クレジットカードや電子マネーには、現金をもち歩くリスクを避けられる、お金を下ろす手間が省ける、支払時の時短になる、ポイントが貯まりやすい、感染症対策になるなど、いろいろなメリットがあります。しかし、「額面効果」的に言うと、金銭感覚がルーズになる可能性が高いと言えるでしょう。