ハイブランドや限定品を買うのに必死になったことはある? 一度でもあるならこの作品の主人公の必死さはわかるはず。『150万のバッグが欲しい主婦の 夫に内緒の買い物日記』はハイブランドの「特別感」にハマってしまい、自分を見失いかけた主婦のストーリーです。


普通の30代主婦・パト香は、暇な昼下がりにSNSを見ていると素敵なバッグを見つけます。投稿のタグを見ると「エレガント」というハイブランドのもののよう。さらにタグを辿って、エレガントのバッグを持つ女性たちの投稿を見るうち、パト香はその”界隈”のあるあるや用語を知ります。

 

作中では、「バルドー」というバッグが有名な架空のブランド「エレガント」とありますが、これは女優の名にちなんだアイコンバッグが有名な、フランスのあの老舗ブランドのことですね。

 

界隈の”観客”だった彼女は徐々に、自分もエレガントのバッグが欲しくなってきます。ブランドで一番有名なのは「バルドー」というバッグだけど、こっちの「パネトン」なら手が届きそう、とうきうきするも、そのお値段、36万円。でもどうしても欲しくなってきた彼女は「パネトン貯金」のため、夕飯を質素にし、お金を貯めはじめるのでした。

貯金が着実に貯まる中、パネトンの実物を見てみたいという欲望に駆られ、初めてエレガントの実店舗に行こうとするパト香。でも、そこにはハイブランドならではの暗黙のルールがありました。

 

オンラインなら気軽に買える、というアドバイスを知恵袋サイトでもらい、ほっとひと安心するパト香だったが、ネット購入も茨の道。パネトンはいつオンライン在庫に出現するかわからないため、同じパネトン狙いのブロガーの情報を頼りに、昼夜問わずパトロール&出現したらクリック連打。パトロールに夢中になり、家事がおざなりになる彼女はどんどんエレガント沼にハマってゆくのでした。

パト香がやっていることは、ポジティブに言えば対象がハイブランドのバッグである「推し活」。でも、パネトンゲットに夢中になっている彼女を客観的に見るとちょっと危機感を覚える。憧れのバッグを手に入れるため、夫や子どもとのリアルな生活が上の空になる彼女は何かに取り憑かれているよう。
 

パト香は、何に取り憑かれているのか?


彼女がハイブランド沼にハマったきっかけはSNS。インフルエンサーや自分と同じような主婦の「私はこのバッグを持つことができる特別な人間なの」という自己顕示欲いっぱいの投稿を見ているうち、自分もエレガントが欲しくなる洗脳状態に陥ったのです。「あの人が持っているなら欲しくなる」という感覚、わかりますよね。

それだけではなく、エレガントの商品を手にいれるための情報も、ブロガーや知恵袋サイトなどネットからしか入手していません。もしかしたらインフルエンサーやブロガーは嘘の情報を書いているかもしれないのに。彼女はすっかりネットに取り憑かれているのです。

 


それだけではありません。ストーリーの中盤でパト香はパネトンを無事手に入れるのですが、今度はパネトンに似合う服や靴が欲しくなります。ショップに来店して買うほど常連扱いをされることにうっとり高揚し、自分の「担当さん」探しに夢中になります。

それ以降、特定の店員に顔を覚えてもらうために安くて買えそうなものばかりを買い出すパト香は、ハイブランドの店員が作り出す「自分を持ち上げてくれる特別感」にも取り憑かれているのです。

 

ネットもハイブランドの接客も、一度足を踏み入れたらもっと欲しいさらに欲しい、と渇望させ続けるシステム。パト香がハマったのは消費を煽る資本主義の縮図なのです。資本主義の世界で生きている私たちは誰しも、彼女のように何かの沼にハマっているのかもしれません。そしてストーリーの最後、彼女の元に残ったものを見て、あなたはどう思うでしょうか。

 

『150万のバッグが欲しい主婦の 夫に内緒の買い物日記』第1〜6話を試し読み!
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<作品紹介>
『150万のバッグが欲しい主婦の 夫に内緒の買い物日記』
エレパトちゃん (企画・原案), ユキミ (著)

ある日フォトスタグラムで、自分と同世代の主婦がハイブラ中のハイブラ「エレガント」の最高峰バッグ「バルドー」を持って投稿しているアカウントを発見。庶民の自分とはかけ離れた世界だと思いながらも、エレガント界のマウント合戦の様子がおもしろく、見ているうちに「パネトン」というバッグの存在を知り、欲しくなってしまう⋯⋯。


作者プロフィール: 

ユキミ
昭和生まれ平成育ちの漫画家・イラストレーター。絵を書くこと、推し活が日々の活力。
ライブドアブログ「ユキミのちょっと聞いとくれよ」にて息子との日常漫画を執筆中。
Twitter:@yukita_1110

エレパトちゃん
ハイブランドの店舗やオンラインショップをパトロールするAmebaブログを運営し、Amebaブログ「コレクション」ジャンルではしばしば1位になるほどにファンも多数。店舗での塩対応に震え上がり、オンラインでのパトロールを強化中。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩