インターネットの普及によって、私たちはたくさんの「便利さ」を手にいれてきました。SNSをつかってオンライン上で人とつながったり、自宅にいながら動画をつかって海外旅行気分を味わったり。しかし精神科医の名越康文先生はこの「便利さ」が原因で、感情が鈍くなる可能性があると言います。

感性を鈍らせないためには、運動をしたり絵を描いたり、ぬりえもおすすめと語る名越先生。そこで、大人むけのぬりえBOOK『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』(画:北見 葉胡 )を開きながら、感受性豊かに生きるためのコツを伺いました。

精神科医の名越康文先生が、とある試写会での体験を通してひらめいたこととは。

最近は映画やドラマなどのコンテンツを、自宅で楽しめる時代になりました。もちろん僕も、自宅でアニメを一気見したりして、大変助かっています。しかし、どこかで「このままで大丈夫だろうか」という不安もあるんです。

先日、あるホラー映画の試写会に呼ばれました。早めに試写室について待機していたけど、待てど暮らせど誰もやってこない。10分ぐらいしたところで、係の人が「では、はじめさせていただきます」と。50人以上座席のある試写室に、ぽつんと座ってホラー映画を観たんです。これがめちゃくちゃ怖かった。

この日を通して思ったのは、映画本編だけじゃなく、映画がはじまるまでの出来事や、映画館の空気感も含めて「映画を観た」という体験になっていること。映画館で映画を観ても、その前後の食事や、館内の雰囲気や匂い、帰りの電車の車内広告を眺めながらボーッと映画のシーンを振り返っていたりすることの全てがつながって、映画体験そのものがより冴え冴えと深みを増してゆく。現代では欲しいものを得るまでの過程が、無駄なことと思われる傾向があります。しかし、僕らは便利なことを優先するあまりに、いわば経験のクライマックスを低めていることもあると思うんです。

 

心のドロドロを絵に描いて救われた日々
 

感性を鈍らせないために、一番手っ取り早いのは、体を動かすこと。ちょっとした山登りに出かけたり、運転して海を見に行ったり。エネルギーをつかった先に達成感があると、心は自然と満たされます。

自宅にいても、充実感を得ることはできます。たとえば絵を描くこと。僕は仕事が忙しかったとき、毎日のように絵を描いたことがありました。他人の心に寄り添いすぎてバランスをとるのが難しかったとき、自分のなかのちょっとカオスな部分に向き合いたくなったんです。

はがきサイズの紙を買ってきて、思うままにペンを動かしたら、いつの間にか奇妙な鳥の絵ができあがっていた。なぜ鳥だったのか、理由はわかりません。一応ツイッターには載せていましたが、別に誰に見せようという訳でもなく気ままに描いていました。それでも仕上がった絵をみて、僕は救われた心地がしました。

文章を書いても気持ちを整えることができますが、行き着けなかったり、型どおりのものになってしまうこともある。一方絵を描くときは感性を頼りにするため、内面をそのまま映しだすことができたんです。

名越康文先生の鳥の絵。名越先生は、最終的に77羽の鳥を描きあげました。


リアルな植物が描かれた「ぬりえ」でさらなる充実感を


もし絵を描くハードルが高ければ、ぬりえをするのもおすすめです。イラストのどこの部分をぬるか考える、色を選ぶ、紙に色をぬる、絵が完成する。2~3日経ってまた眺める。ぬりえにも、行動の起承転結があります。

せっかくなら、ぬりえをするイラストにも、こだわってみてはどうでしょうか。「花ぬりえ絵本 不思議な国への旅」で描かれているイラストは、リアルな植物のなかに妖精たちがいる、不思議な世界です。かわいい花や妖精だけでなく、熟れた実や、うねうねとしたつるなど、ちょっとグロテスクな表現があるところに惹かれます。

『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』の表紙。 作:北見葉胡 定価:1485円(税込)

新型コロナウイルスが流行りだしてから、僕らの生活は、とにかく清潔にすることに重きを置いてきました。でも実際の世界というのは清潔なものだけじゃなく、グロテスクなものや、らん熟したものも共存している。

「花ぬりえ絵本 不思議な国への旅」のイラストは、そんなありのままの生命が描かれています。ここに描かれた花や植物をぬったら、心の充足感だけでなく、この世界にある命の発露や、輪廻の仕組みにも触れることができるかもしれません。

簡単に物や楽しみが手に入る時代、どこかに感情を置き去りにしているような気がしたら、あえて「無駄」と思えるような行動に時間をかけてみてください。そうすれば、必ず感情は揺れ動きます。僕らの生活をより豊かにするには、心が動く起承転結を起こすことが必要なのです。

 

名越康文(なこし やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪精神医療センターにて精神科救急病棟を設立。
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文/山口真央