小さくても楽しいこと、ボランティア活動…それができる精神的、経済的ゆとりが出てきた


戸田さんのプロフィールにもあるように、これまで出演されてきたドラマや映画、舞台、そして吹き替えのお仕事など、多種多様な分野で活躍を続けていらっしゃいます。

戸田恵子さん(以下、戸田):あんまり“選んできた”という感覚はないです。スケジュール、物理的な問題でやれる、やれないということはありましたが、出演するべきか考えさせられるような話が来たこともないというか……。劇団時代(劇団薔薇座)は言われたことをやらないといけませんでしたが、劇団を離れてからはストレートプレイがやりたい、そしてほかの役者さんたちとたくさん一緒に舞台に立ちたいという思いが強く、そういうお仕事をやりました。劇団ではミュージカルしかやりませんでしたから。

 

ミュージカルもストレートプレイも両方できる女優になりたかったというか、きっちりお芝居だけ、という作品にも出られるようにしたかった。年齢を重ねて、自分たちで何かを出来るようになってからは大きい作品も素敵だけれど、小さくても楽しいことをやっていきたいと思っているんです。

 


そういって戸田さんが話してくださったのは、ラサール石井さんやでんでんさんたちと一緒に参加している『星屑の会』というカンパニーについて。ムード歌謡コーラスグループを描いた『星屑の町』シリーズで、ヴォーカルの役をもらっているそう。また、ナイツの塙宣之さんが最近立ち上げられた『劇団スティック』の旗揚げ公演にも参加されたとか。

戸田:『星屑の会』はおじさんたちと一緒にやるのがすごく楽しい(笑)。塙くんが立ち上げた劇団は、本当にまだ素人のような劇団で、稽古場も転々として○○会議所みたいなところを借りたりするような集まりなのだけど、そういったところに“自分の意思”として出演するよ、というのを言えるようになってきました。60歳をすぎてそういうことができるようになったことが嬉しいし、何より、本当に楽しくて。

ミモレ世代の少し先輩にあたる戸田さんは現在65歳。人生を見直したきっかけは50歳になった頃だったそうです。

戸田:50歳になったときに、ダウン症の子どもたちのスクールをバックアップするというボランティア活動をスタートしたんです。もうひとつ、子ども向けに作られた長編短編作品を上映する『キネコ国際映画祭』のゼネラル・ディレクターもボランティアで行っています。このふたつを運営するだけでもスケジュールがパンパンになってくる。でも、それって、精神的にも経済的にも少しゆとりがないとできないことだったりするんです。

ちょうど母が亡くなったタイミングでもあって。“人生の逆算”みたいなものを始めたんです。今までオファーがあっても辞退していた講演会のお仕事も受けることにしました。それまでは、そんなのおこがましいって思っていたし、ひとりで90分も話すことなんてないからとずっとお断りしていたのですが、「戸田さんの生き方を話してほしい」というオファーがほとんどだったので、受けてみようかなと。