前回に続き熊本旅の第二弾は、2020年、コロナ禍にオープンした、誰もが集い“カタル”場所をコンセプトに古築ビルをリノベーションした玉名市のホステル「HIKE」からスタート。

前回記事
思い立ったらすぐ行ける!「美しい工芸と食を巡る」2泊3日の熊本旅>>

 

古ビルのリノベーションホテル「HIKE」


「HIKE」の名前は、この場所を訪れた人々が何かを感じ、人生が少しでも豊かになってほしいという思いを込めて、登山をする人たちが交わし合うポジティブな挨拶からつけられたそうです。日本人って、あまり挨拶が得意な生き物ではないように感じるけれど、登山の時ってしっかり挨拶しますよね。「もうすぐ頂上だよ!」とか、「少し行くと素晴らしい眺めがあるよ。でも、足元が悪いから気をつけて!」とかね。

私はタクシーの運転手さんや清掃係の人、売店のおばちゃんのような知らない人ともコミュニケーションを取りたいタイプの人間なのです。ほんの一瞬のたわいもない会話で、少しでも気分が良くなったらいいなといつも思っています。登山の時の優しい気持ちが街中でも蔓延したらいいですよね。

さてさて、お部屋はシングルルームから定員6人の畳部屋、6人または8人まで泊まれるファミリールームなどいくつかのタイプが用意されています。地元の生産者や旬の食材を使用したカフェ&ダイニングや手仕事のアイテムを集めた「タシュロン」も併設されていて、近隣で作られた調味料やコーヒー、ハーブコーディアルなど、ついつい手にとってしまう魅力的なものが並びます。広々としたカフェ&ダイニングは、開放的な気分になりますよ。
 

 

「タシュロン」には、ふもと窯の尚之さんの作品や、かつて訪れたことがある福田ルイさんのものなど、小代焼の作家さんの作品がたくさん並んでいました。工房で拝見するのと、こういった場所で一堂に拝見するのでは、また違った見え方になりますね。尚之さんの作品を眺めながら、スープカップなどの可愛いらしいアイテム多いな、なんて思ったり(笑)。


カフェでは、小代焼でドリンクとスイーツをいただけます。キャロットケーキは常に形を変えながら作っているそうで、この時はロールケーキ仕様でした。珍しい!東京の大手セレクトショップで働いていたオーナーのセンスが光る、ちょうど良いオシャレ感と抜け感のバランスが心地よい、開放感に溢れた場所でした。
 

阿蘇の大自然と自由に遊ぶ陶芸家

 

福岡で活躍している料理人からのご紹介で、阿蘇市の静かな森の中にある工房「阿蘇坊窯」の山下太さんを訪ねました。山下さんは、阿蘇の溶岩や火山灰、土、水、草木など、阿蘇の豊かな自然に由来する素材を使って作陶している作家さんです。自然への畏敬の念と感謝を大切にし、阿蘇にいることを最大限に楽しんで、日々楽しく実験をしながら、阿蘇を表現するために作品を作っているように感じました。

「阿蘇のカルデラって、そのものがうつわなんですよ」という山下さんは、噴火があるとすぐに火山灰を取りに行くんだそう。「その火山灰ですぐに釉薬を作り、うつわにしてレストランに届けたら、この前の噴火の火山灰だよって言えて楽しくないですか」と子供のような表情でお話しされていたのがとても印象的でした。

ジャンルを問わず個性的なのに、不思議と生活に馴染みそうな山下さんの作品の中で、私がグッと来たのは神器でした。天草の石に阿蘇の溶岩を混ぜた土で作ったという神器は、山下さんの想いがグッと入っていてとても神聖なものに見えました。聞けば、よく山の中に入り、大きく神々しい石を探してはスケッチをして、それを形に起こしていると。おもしろい人だなと思いましたね。あ、この人は八百万の神を感じながら、ここ阿蘇で自然と対峙しながら生きているんだなって。

そんな想いを持ち大自然の中で作られているんだけれど、どこかスタイリッシュで繊細で、でもプリミティブで大らかで。言い表し難い不思議な魅力のある山下さんの作品、これからも楽しみに追いかけたいと思います。

 
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