私たちは「地域の文化や雰囲気」を作っている一員

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小澤:ダイレクトなアプローチだけでなく、少し手前でできることがあると思います。誰もが、自分が暮らしている地域の文化や、雰囲気を作っているはずなんです。なので、ふと信号待ちで立ち止まって隣に子どもがいたら、その子がこっちを見るその眼差しをちゃんと受け取って、ちょっとにっこりしたり挨拶をするとか。他にも保護者が電車やバスの乗り降りなどベビーカーを一人で持ち上げたりするのが大変そうな時、まずは「手伝いましょうか?」と声をかけてみたり。

日常には、まだまだ自分が目を向けていなかったいろんな声や願いや「どうしよう」があることに出会い直す。相手の存在を受け取って行動してみる。今を共にしている子や出会った人が「ここにいて大丈夫だ」と感じる環境は、一人ひとりの手元から育まれる、今からできる間接的なアプローチです。日常生活の中から、文化を醸成していくことはできるはず。その意識の持ちようも、市民性の一つだと思っています。

――実際に「Citizenship for Children」に参加された方たちが、全国各地でいろんな取り組みをされているとお聞きしました。どういうふうに、社会の中で市民として子どもたちに関わっていってらっしゃるんでしょうか。

小澤:自分たちの地域で、既に実施しているものをより発展させていく場合もあれば、新しく立ち上げたりという動きもあります。日常の中での地域や自分の周囲への捉え方が変わったり、朝少しだけ早く家を出て地域に目を向ける余白を作ったりという暮らしの中で自分のできることをはじめる方もいらっしゃいます。

子ども若者を対象とした内閣府の意識調査では「困った時に行政機関などに相談しますか」という質問に対して、「相談しない」との回答が約7割弱に上りました。例えば、困ったなあと思うことがあった時、それが複数の困りごとにより起こっていたら、困りごとそれぞれに合った窓口を探してそこに行く、といったハードルを越えていく必要があり、自ら行政に相談するという行為は、実はとてもハードルが高いのではないかと思います。だからこそ、暮らしの動線にたまたまあって、ふらりと入りたくなって、話したい時にちょっと話ができる。そんな環境も大切になりますし、そういった環境を作る方たちもいらっしゃいます。

「Citizenship for Children」プログラム参加者による実践の一例

小澤:医療的なケアを必要とする子どもたちと、地域の人が関わり合うような駄菓子屋や居場所をつくった方がいます。場所作りだけではなく、朝5分くらい早く家を出て街の様子を見てみる、家族連れやいろいろな地域から遊びにくる人がいる中で、遊歩道でシャボン玉を飛ばしてみる、といった行動に移した人もいます。こんなふうに市民性が街にあふれていくと、街の風景が変わっていくと思うんです。