洋服と同じように、しわを気にしすぎない

このように着付けは簡単です。誰かに教わればおそらく6時間くらいで着られるようになると思います。こうして着物生活に慣れたうえで、着物の道を極めたいなら着物学校に行かれるとよいと思います。私も着物学校に一年通い、たくさん学ばせていただきました。

それと雑誌などでは、衿元から胸にかけてしわ一つない板を入れているような着姿を見かけます。着付学校でも、そうなるために各学校によってそれぞれ独自の補正方法を教えてくれます。私はこれが着物離れの大きな原因の一つだと思っています。

洋服を着るときにしわを気にすることはないのに、どうして着物になるとしわがよったらだめ、となってしまうのか不思議です。自分の寸法にあった着物を着れば、そんなにシワシワにはなりませんし、スタッフは補正は必要があれば下着感覚で気持ち程度にするくらいです。私は補正はいっさいしません。

もっと気軽に着物を着てみたい人は半幅帯から始めるのも一つの方法です。幅16cmほどの細い帯で、浴衣の帯などです。大きなリボン感覚で自由に簡単に結ぶことができます。

 

「着物は洗えない」は思い込み

 

着物を着たあとのケアについてもネガティブなイメージをもつ人は多くいます。確かに絹はとてもデリケートな素材なので、高級なものほど水洗いはできません。水に濡らすと縮んだりしわになったりするからです。着物は絹のなかでも品質の良い高級品を使っていますから洗えないと思い込み、しみを付けないように気を使い過ぎて着物だと食事が楽しめないという人もいます。しかしそれは大きな間違いです。着物は洗えるのです。

●洗い張り
洗い張りとは着物を解いて反物の状態に戻したあと伸子(しんし)張りなどの方法で着物を洗うことです。洗い張りであれば水性の洗剤を使っても着物が縮まないので、水性・油性両方の汚れを落とすことができます。

「伸子」は両端に針のついた40cmほどの細い竹棒で、これを400本~600本程度並べた上に反物を張ります。竹の弾力性によって反物が無理なく伸ばされ、絹の繊維をハリのある状態へと戻していきます。実はこの方法は桃山時代に始まったといわれ、使う道具は当時のままです。桃山時代といえば16世紀後半の豊臣秀吉が天下を取っていた時代です。

汚れを洗い流して着物をきれいにしてあげたいという日本人の心は、その頃からずっと変わっていないということです。

洗い張りは高額というイメージがあるようですが相場は1万円~1万5000円程度ですから、それほど高いわけではありません。ただし注意しなければいけないのは、洗い張りをした着物は反物の状態なので、着るためには仕立て直しが必要になる点です。その費用は、裏地を付けるかどうか、また付ける場合は新調するかどうかによって差があり、だいたい4万円~7万円程度です。洗い張りも仕立て直しも職人が一つひとつ手作業で丁寧に行い、着物を新品同様によみがえらせてくれるのですから、決して高い費用ではないと思います。

若いときと寸法が違ってきたとか、娘用に仕立て直すとか、十年、二十年に一度、洗い張りをして新品のように戻されると良いと思います。