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今月はアルジェリアから届いた、映画『裸足になって』を紹介したいと思います。監督はドキュメンタリー出身らしく自然な光を生かした映像はとても美しいのですが、女性たちの過酷な現実が描かれた作品です。

©THE INK CONNECTION - HIGH SEA - CIRTA FILMS - SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA - LES PRODUCTIONS DU CH'TIHI - SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT

主人公はバレエダンサーを目指す女性、フーリア。ある日、逆恨みで男に襲われた彼女は大怪我を負い、しかも事件のトラウマで声を失ってしまいます。
目標をなくした彼女が出会ったのは、それぞれに事情や過去を持つ聾者の女性たち。リハビリ施設でダンスを教えてほしいと頼まれたことをきっかけに、フーリアは生き方を変えていくことになるのです。

 

フーリアを演じたリナ・クードリは、ディオールのアトリエを舞台にした『オートクチュール』でお針子を演じていた人。
この映画でも、彼女の凛とした表情に思わず見入ってしまいました。
クラシックバレエという厳しい世界で生きてきたフーリアの芯の強さを感じたのは、施設の女性たちについ厳しく指導してしまうシーン。
我慢することが当たり前の毎日を生きてきた彼女や、ハードな物事を乗り越えることを生きがいにしている人、またはそんな環境にいて必死に生きていかなきゃいけない人は、他の人に対してもこれくらいのことはできるよね? と思ってしまいがちなところがある気がします。
古典的な世界で踊ってきた彼女が、コンテンポラリーダンスで自分らしい表現の形を探していく過程は、とても感動的です。

 

手話を取り入れた振り付けを考えて、女性たちと一緒に踊るシーンを見ながら、踊りって他の人たちと感情を共有できる手段なんだ、と改めて感じました。
言葉が通じない外国の街角でヒップホップやタンゴ、フラメンコを踊ることができたら国や人種を超えて、身体表現で繋がることができる。多くの国で上演されている『シカゴ』も同じことが言えるかもしれません。
言葉はわからなくても踊りから伝わることがあるし、演じる側になったときも言葉が完璧じゃなくても、踊りで色々な感情を伝えることができるんですよね。

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アルジェリアの情勢について知識がないのにこの映画について語っていいのだろうか、という思いもありました。
でももしも夢を叶えることがままならず、未来が見えなくて自分が人生の谷底にいるような気持ちになっている人がいたら、ぜひ観てほしい。
女性の立場が弱い社会のなかで高い壁を壊そうと立ち上がり、前を向いて歩き出すフーリアのエネルギーに勇気づけられると思います。

 

<映画紹介>
『裸足になって』

舞台は北アフリカのイスラム国家、アルジェリア。内戦の傷が残る、不安定な国でバレエダンサーになることを夢見るフーリアは、貧しくもささやかな生活を送っていた。しかしある日大怪我を負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。失意の中、彼女がリハビリ施設で出会ったのは、ろう者の女性たち。彼女たちにダンスを教える中で、再び情熱を取り戻していく。製作総指揮は『コーダ あいのうた』でろう者の俳優として初めてのアカデミー助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァー。新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中。

©THE INK CONNECTION - HIGH SEA - CIRTA FILMS - SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA - LES PRODUCTIONS DU CH'TIHI - SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT


取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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