全国的に梅雨明けした日本は夏本番を迎えました。連日猛暑のニュースが流れ、セミの鳴き声が響き渡るものの、夏というだけでわくわくした気持ちになるのは、子どもの頃の夏休みを思い出してしまうからでしょうか。夏には、背筋がゾクリとするホラーもつきもの。コミックDAYSで連載中の『クラゲの骨は青』という不思議なタイトルの作品は、高校2年生の男女のラブストーリーと思いきや、不穏な雰囲気がプンプンする、ミステリじみたホラーラブストーリー。寝苦しくてなかなか眠りにつけない時におすすめの作品です。


ラッキーアイテムは「踏切」?


母と2人で暮らしている高校2年生の七海遥花(ななみはるか)は、登校前に朝の情報番組の占いコーナーをチェックするのが日課。この日の運勢は最下位で、ラッキーアイテムは「踏切」とのこと。

学校帰りに、カンカンと鳴り響く踏切の前に佇んでいると、隣の高校の制服を着た男子高校生に声をかけられ、突然告白されてしまいます。

 

学校で花壇の水やりをしている人に誤って水をかけられてしまったという七海は髪や制服が濡れており、電車に乗れないでいました。何の気なしにラッキーアイテムである「踏切」に足を運んでみたところ、まさかの人生初の告白! 見知らぬ男子と思いきや、実は初対面ではありませんでした。

 

男子は工藤暁(くどうあき)と名乗り、かねてから電車の駅で七海のことを見かけいて、一目惚れだったといいます。ある時、彼が学生証を落としてしまったところ、七海が拾って渡してくれたことがあったというのです。この時、七海は自分が乗る予定の電車に乗りそびれ、1時間後の電車まで待つハメに。しかし、七海は「それよりちゃんと持ち主に戻せてよかった」と男子に微笑み、それが彼の心に深く残っていたのです。

 

あいにく七海はそのことを覚えていなかったのですが、男子はその後も人助けをしている七海を何度か見かけることがあり、困っている人を放っておけない七海に思いを寄せるようになります。この日は偶然、踏切で彼女の姿をみかけて勢い余って告白してしまったのでした。はじめは動揺していた七海ですが、彼から純粋な好意を寄せられても悪い気はせず、自分の振る舞いを見て肯定してくれたことを快く感じ、連絡先を交換します。別れたあと、帰りの電車に乗り込もうとする七海は、「帰りたくないなぁ…」とつぶやきます。


何もしない、だらしない母との息詰まる暮らし。


というのも、一緒に暮らす七海の母は家事を全くせず、買い物や食事の準備も全て七海任せ。工藤と過ごしていたことはもちろん言えないものの、帰宅が遅れた七海に対していい顔をしていませんでした。慌てて買い物に出かける七海は、帰り道にあの踏切の横を通ります。この近辺では踏切での人身事故が頻発しており、線路を眺めていた七海は、衝動的に歩道橋を乗り越えようとします。

 

その七海をすんでのところで引き止めたのは、工藤でした。七海がよくないことを考えているような気がしていたため、声をかけたといいます。七海がいま飛び込もうとした行為に明確な引き金があったわけではありませんが、親らしいことを何もせず、男を連れ込むこともある母との息苦しい生活、学校でのいじめ、最下位だった朝の占いなど、さまざまなことが積み重なっていたのかもしれません。

一歩踏み出せば楽になれると思った七海に手を差し伸べた工藤は、「君のことが好きだから」と一言。実は、七海が人に優しいのは、自分が嫌われたくなくて打算的なだけ。こんな自分を必要としてくれる工藤の存在に救われた気がして、涙を流す七海でした。

 


真夏のボーイ・ミーツ・ガールは不穏な雰囲気。


ここまで読むと、どこにでもいる普通の女子高生のようでいて、なかなかに人生ハードモードな七海が、ある少年との出会いによって救われていくいい話に見えるかもしれません。でも、この物語はここから始まっていくのです。

七海の境遇は相変わらず厳しいままですが、工藤との出会いを境に、なぜか見えざるものの気配を感じたり、謎の声が聞こえたりするようになります。七海は工藤と友達から始めることにしますが、毎日メッセージをやりとりし、二人で出かけるのは初めての経験で、どきどきすることばかり。工藤はどこまでも優しく、七海が怖い思いをしている時もどこからともなく現れて助けてくれるため、七海にとって工藤はだんだん大切な存在となっていきます。

一方で気になるのが、工藤という人物。制服から隣の高校の学生らしいのですが、詳しいことは謎のまま。どうやら頻発する踏切の人身事故との関連があるようで、もしや工藤自身も人ならざるものではないかと感じさせる場面もちらほら……。

単行本1巻の最後には、「え、どういうこと?」と唖然とする展開があり、続きが気になること間違いなし。『クラゲの骨は青』というタイトルからして不思議なのですが、七海が見えるようになった何かや、工藤の正体など、物語は不思議なことだらけ。どのような展開になるのか全く読めないところが楽しみでもあります。もしや工藤から離れたほうがいいのでは? という気がしないでもないものの、死にたいほど苦しかった時に現れた工藤は、七海にとっては心の支え。二人はどうなっていくのか? 背筋を凍らせながらお楽しみください!

 

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『クラゲの骨は青』
追本 講談社

セミの鳴き声がうるさく響く夏のある日。高校2年生の七海遥花は、隣の高校に通う工藤暁に告白される。「話したこともないのに…」と戸惑う遥花に対し、工藤は「まずは友達から」と提案し、2人は連絡先を交換することに。時を同じくして、2人の住む町のとある踏切では連日、同じような人身事故が続いていた――。愛しいほどに狂おしい。交わりたいけど交われない。一生忘れられない真夏のホラーラブストーリー、開幕。