そんなにうまくいってる親子関係ってないんじゃないかな

 

ーー美也子と清史郎は2人とも思っていることを言葉にするのが苦手で、見ていてとてももどかしかったです。小林さんは清史郎の娘への思いをどう思いますか?

いや、僕はそういう視点で(作品に)入ってないんですよ。清史郎はそんなに生き方が上手じゃないし、娘もまさにそうで、自分の気持ちをそんなに伝えられてないじゃないですか。宮田(俊哉)くんが演じる花屋の男の子とかに。その齟齬やズレが、面白さだなと思いました。コミュニケーションが上手くとれないから、ドラマや映画になるんですよね。

 

ーーたしかにそうですね。私がもどかしく感じるのは、登場人物の気持ちが観客には伝えられているからですし。

実際に、そういう齟齬や断絶を抱えながらもみんな生きていかざるを得ない部分があるわけで。親子関係というのは言ってみたら、最小単位の他人とのコミュニケーションですよね。多分、そんなにうまくいってる親子関係ってないんじゃないかな。自分が親父の年齢になっても、当時の親父の気持ちがわからないのが人間だと思うしね。だから僕はそういうつもりで、娘のことがわからなくていいんだ、という気持ちで入りました。坂東(龍汰)君が演じる息子に対しても「わからないやつだなこいつは」と思いながら。台本を読んでしまうと登場人物の気持ちがわかっちゃうんで、そこはあまり読み込まなくていいかなと思いながらね。人はそんな上手にはね、コミュニケーションを取れないと思うので。

ーーそれが前提なんですね。小林さん自身、ご家族とのコミュニケーションにおいてもそうですか?

そうですね。ただ好きに生きなさいと言うだけですね。うちはお互いに好きなことをやればいいんじゃないですか。

ーー息子さんに対してもそうですか?

そうです。生き方というのは「これ」というものが定まってるわけじゃないし、定める必要もないし、とりあえず今好きなことをやればいい。あんまり小さいときにいろんなこと、例えば受験とかそういうプレッシャーがかかってもしょうがないんでね。いろんな親御さんがいてね、やっぱりいい学校を目指している子は、受験のために塾に通っている時期ですよ。でもうちは1個も行っていません(笑)。別にいい学校に行かなくてもいいし、学校に行かなくてもいいと言っているぐらいだから、今やりたいことをやったらいいなと思います。

ーーお子さんに好きなことがあって、それを親子で共有しているのが素晴らしいです。
 

 

「好きなようにやりなさい」と言っているだけですけどね。子どもの方から見たらどういう景色なのかはわかんないですよね。「親父には何を言っても通じねえだろうな」と思っているかもしれない。自分の子供がまだ小さいというのもあるし、「俺は子どもには縁がないな」と思っていたときにできた子だから、「俺はちゃんと親をやってんのかな?」と不安になるときがありますよ(笑)。ただ、子供には「自分の力で生きていけよ。それはそれで大変なんだぞ。泣きたくなるときもあると思うけど、自分で超えていかなきゃいけないぞ」という気持ちがあるだけですね。

ーー言葉にして伝えていますか?

直接は言わないですよ。そんなことを「座れ」と言って説いたところでわかるわけないので(笑)。案ずるような気持ちはなくはないけど、今は楽しいことがあったら目一杯やっとけよという気持ちだけですね。

ーーそれは、清史郎から美也子へのスタンスにも通じますね。この映画をお子さんや若い世代の人たちに見てほしいと思いますか?

いやいや、俺は俺の事情で生きて、役者をやっているだけなんで。若い世代にメッセージとかはまったくないですよ(笑)。

ーーなるほど(笑)。

役者をやっているのは俺の事情だから、あなたはあなたの事情でやりなさいということですよね。基本的には見なくてもいいよという。ただ何かのときに「コメントください」と言われたら、一応言いますけど。(映画から何を受け取るかは)それぞれなので、こっちから押し付けたりというのはないですよね。