結婚制度や、結婚の先にある物語って「なんなんだろう?」

映画の中では、人間の黒い瞳が印象的に描かれる場面が何度も登場する。

――物語の舞台は冬の長野で、どんよりとした曇り空が続いているのですが、一方で、新居の屋根裏部屋の赤みを帯びた断熱材の色が印象的な場面などもあり、こうした色調も映画全体に大きな影響を及ぼしていますね。

神津先生の作品は本作以外にも『ママ』なども拝読したのですが、一貫して“母性”が流れていると感じました。女性性の奥にある魔性といいますか……。この作品ではそういうところを描きたいと思いましたし、赤みを帯びた断熱材を選んだのも、胎内をイメージしたところがありました。

 

――この作品は、新築マイホームに潜む謎だけでなく、登場人物一人ひとりの裏側にあるものや闇も浮かび上がらせていて、「人間が一番怖い」と思わされるものがありました。そんな中、“理想の家族”や“理想の愛”って一体何なんだろう? と改めて考えさせられたのですが、齊藤監督はどんなことを感じられましたか?

日本では適齢期になったら結婚して、子どもができて、という結婚制度が長らく続いています。一方、フランスでは性別に関係なく結べるパートナーシップ制度PACSができたように、既存の結婚制度に限界が来ているところがあると思うんです。僕も20代の頃から、「なんで結婚しないの?」「信じられない!」といった視線や発言にさらされていて、俳優としても不貞にまつわる作品が多いので(笑)、結婚制度や、結婚の先にある物語を「なんなんだろう?」と感じることがよくあります。

もちろん既存の制度にフィットしている人もいますし、僕自身も、その恩恵でこの世に生を受けました。でも、そうした“理想”に無理に当てはめようとすると、溝が生じることもあるんじゃないかと思うんです。“理想”とは、すごく複雑な形で、もしかしたら少しずつ形を変えてうごめいているものなんじゃないか。得体の知れない結婚制度ではありますが、このシステムの限界が露呈しかかっている現在、一人ひとりにできるのは、社会とのつながりを個々がしっかりと持つということだと思うんです。

日本人は集団を意識しているようでいて、実は孤立、孤独な民族でもあると思うんです。社交性が求められるけど、その中でいかに自分だけの何かを守れるかどうか。それがある意味、“理想”を保つバランスにつながるんじゃないかと。何かを強要したり、されたりすれば、元々いびつなものがさらに乖離してしまうんじゃないかと40年以上生きてきて、思うところではあります。
 

【写真】映画を撮る側だった齊藤工監督が、撮られる側になって見せた、鋭い視線
▼右にスワイプしてください▼

齊藤工さん着用
ジャケット参考商品、シャツ¥39600、シャツに付いたビーズ¥22000、パンツ参考商品、ネクタイ参考商品、ブレスレット¥22000/すべてソウシオオツキ 靴/スタイリスト私物 
お問い合わせ先/MATT.

映画『スイート・マイホーム』
公開中

出演:窪田正孝/蓮佛美沙子 奈緒 中島 歩 里々佳 吉田健悟 磯村アメリ 松角洋平 根岸季衣 窪塚洋介
監督:齊藤 工
原作:神津凛子「スイート・マイホーム」(講談社文庫)
脚本:倉持 裕
音楽:南方裕里衣 
製作幹事・配給:日活 東京テアトル
制作プロダクション:日活 ジャンゴフィルム
企画協力:フラミンゴ
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
公式サイト:sweetmyhome.jp 公式Twitter:@sweetmyhome_jp


撮影/大門徹
ヘアメイク/赤塚修二
スタイリスト/三田真一(KiKi inc.)
編集・取材・文/吉川明子
 

 
 
  • 1
  • 2