「11人に1人」と言われるLGBT。その数は実は左利きの人よりも多く、もしかしたらすごく身近にいることを知らないだけかもしれません。Instagramで1億回再生された「床バレエ」で話題の竹田純さんも、そんなひとり。この3月にはフランスで、リトアニア人のパートナー、クリスさんと結婚したことでも知られています。今回そんなおふたりにお聞きしたのは、小さい頃から今に至るまでしてきた様々な経験や、家族との関係、結婚への思い。これからの時代に、みんなが幸せに生きるためのヒントとは?

 


──竹田さんは「自分は異性愛者ではない」ということに、いくつぐらいの頃に気づいたんでしょうか?

純:多分ですが、保育園の時ですね。好きな対象だった人がいて、その人が女性だということに後から気づき、あれ、ちょっと違ったかなと思って。

左:バレエダンサーの竹田純さん、右:純さんのパートナー、クリスさん。

──自分は周囲の人とは違うのかな? ということを自覚したのはいつ頃でしょうか?

純:はっきりと「この時」というのはわからないですね。たぶん小学校に入った頃、それまでにやっぱり「お父さん・お母さん=男女」というのが印象としてわかってくるじゃないですか。そこから徐々にいろんなことが積み重なって、中学生になりみんなが恋愛の話をし始める頃には、もう心の中では分かってましたね。

──ちなみにクリスさんはいつぐらいに?

クリス:僕も純くんと同じぐらいですね。「いつ」だったのかは頭の中には残っていませんが、子供の時から「周りの人を見ると、僕はちょっと違うのかな」とは思っていて。明確にセクシュアリティというよりは、なんか違うという感じで。好きになる人が女性ではなかったので、自然に気づきました。

純:そもそも周りの人たちのように「あの人かっこいい。あの人可愛い」というような会話ができない、そういう経験がないんですよね。

クリス:言えないですよね。両親を始め周囲にそういう人がいないし、広告とかコマーシャルとかも全て異性愛者しか描かれていないし。今はちょっと変わってきていますが、僕らが子供の頃はストレートしかないみたいな世界だったから。それとは異なる自分の感覚は「おかしいんだ」と思ってしまう。誰に言われなくても、自分の中でそうなってしまいますから。そうするともう、可愛い人を見つけても誰にも言わない。

──ちょっと寂しいですね、それ。

 

クリス:めっちゃ寂しいですよ。子供の頃はまだ自分でちゃんと分かってないし、周囲に自分と同じような人は誰もいないから確認のしようもないし。リトアニアも変わりつつありますが、まだ保守的で、「誰もがストレートの異性愛者」という認識が多いですね。なので、 同性カップルはまだ結婚もパートナシップもできません。

──ご家族に対して、いわゆるカミングアウトのようなものはいつ頃したんですか?

純:そもそも言う必要がないというのが、私とクリスの考えなんです。愛する人を紹介した時に「そうなんだね」となるのが自然だと思うので。私達からすると「カミングアウト」という考え自体が差別的だと思うんですよね。じゃあストレートの人たちはカミングアウトしたんですか? っていう話で。

クリス:僕の兄を見ても「僕は女性が好きなんだよ」なんて言っていないし。

純:本来、そんなことは誰かに言う必要のないことだと思うんです。こうやってメディアが言うことで、若いLGBTの人たちが「カミングアウトしなきゃいけないのかな」って思う、その事自体がすごいプレッシャーになる。

クリス:すごいストレスですよね。

純:自然であってほしいと思うんですよね。愛する人ができた時に言うことだし、お父さんお母さんもそれは普通に受け入れてほしいなと思います。だから「何をしなきゃいけないか」と聞かれたら、普通にお母さんお父さんでいてほしいし、ストレートと同じようにいてほしいっていうのが一番の願いかなと、私個人は思っています。「あ、そうなの。へー、それで?」みたいな感じでいてもらったほうが。

──言われてみると確かに、わざわざカミングアウトする必要もないですよね。

純:世の中がそういう風になっているので、「自分もそうすべき」というロールモデルだけが作られてしまっていている気がします。ただ男性のまま男性を好きというロールモデルが「日本では誰だろう?」って考えた時に思い当たらなくて……。だから私が小さい時、自分のアイデンティティになる人、自分が目指したいような人が見つからなかったです。カミングアウトをする、しないは自由でいいと思うんです。カミングアウトをしたくない人はしないでいいと。

 

クリス:プレッシャーになっちゃうと、家族と距離を取らざるを得ない人生になってしまうから。

──でも親の立場からすると「言ってくれたらいいのに」と思ってしまうような気もします。そこは親も我慢するほうがいいでしょうか。

純:ストレートの子供に「誰かいるの?」って聞くような感じで、自然に聞いてみればいいのかなと。人にもよりますが、やっぱりすごくセンシティブなところだと思うんです。だから、「彼女がいるの?」とか「彼氏がいるの?」ではなく、「好きな人がいるの?」と性的対象を個人的な感覚で判断せずに聞くといいかもです!

クリス:家族の中が「セーフティゾーン」であれば、いろいろ話しやすくなるし、「学校でこういう素敵な人がいるんだ」って、素直に自然に両親に言えようになると思うから。純くんと同じ意見で、僕もカミングアウトはする必要ないと思っているんです。だから親が子供に聞いてはいけないとは思わないけれど、そのためには普段からいい関係が築けていることが大事ですよね。まずはそこからだと思います。僕はそうしたかったけど、ずっと言えませんでした。色々な理由がありますが、心の有り様について、打ち明けられるような家族ではなかったんですよね。

──「セーフティゾーン」についてもう少し教えてもらってもいいですか?

クリス:家の中で「何を話しても大丈夫」と思えるということですよね。例えば子供たちが自分の意見を言った時に、親から否定されたり、馬鹿にされることがあったら、子供は「何も言わない方がいい」と思ってしまいます。でも「それなら話し合おう」という姿勢でみんなが関わってくれるなら、子供たちは「何を言っても大丈夫。家族は信用できる」と思えると思います。友達と同じような感覚になったほうがいいのかなと。これはもちろん僕の個人的な意見ですが。

──竹田さんのご家庭では、お父様になかなか理解してもらえなかったと聞いています。そういう状況はご自身の中でどのように消化しているんですか?

 

純:そうですね。昔からわかっていたので、どこかに「しょうがない」という諦めの気持ちもあります。最も受け入れてほしい人の一人から否定されているのは辛いことですが、そこにこだわりすぎてしまうと、自分の人生全部がダメになってしまう。他者の意見を無理に変えることはできないし、マイナスな状態を引きずり続けると、次々とマイナスな方向に転がっていってしまいます。そういう時にできることって、マイナスな感情を手放して切り替えることしかないんです。すごく残念なことなんですけどね。
ただ僕自身としては、18歳で親元を離れ、違う視野を持てたのがすごく良かったと思います。世界中でいろんな人と会うことで、「お父さんの言うことも、ひとつの考えだよね」というふうに思えるようになりました。自分が海外に出られたことは、本当にありがたかったことですね。

──竹田さんはどういうきっかけで海外に?

純:姉が高校時代にカナダへ修学旅行に行くという話があったんですね。その時に母に言われた「海外に行くと、いろんなもの学べていいよ」という言葉を鵜呑みにして。「行きたい行きたい」と言いだしたら、「ダメ」って言われたんですけど(笑)。姉のカナダ行きが急になくなって、代わりに私がシドニーに2週間くらい、語学留学のホームステイをすることになったんです。15歳の時ですが、そこで見た世界がすごくよくて「ここに自分の居場所があるかもしれない」と思ったんですね。日本にはあまり居場所がなかったので、ここは全く異なる価値観の、こういう方たちの世界だと。

クリス:どういう意味(笑)?

純:否定する人がいない世界って意味(笑)。

──じゃあ20歳になる頃のフランス留学は、いわゆる「デビュー」したような……?

純:「とりあえず海外だから大丈夫でしょ」みたいな、前向きな先入観もあったと思います。言いたいことを言わないといけない国でもあったので、当初はフランス語は全然喋れなかったんですけど、言いたいことを言っていいというだけでもハッピーだったんです。

クリス:でも僕は逆に22歳で日本に来た時に、同じように感じていました。海外だからなんでも大丈夫だろ、って(笑)。

純:そうそう、だから、自分のいる場所から出ると、結構自由になれるんだよね。フランスでの自分は「アウトサイダー」だったと思いますが、そういう人がいっぱいいるから嬉しいんです。フランスにいる日本人はそれだけで「アウトサイダー」な感覚になると思うし。これはもちろん僕の個人的な意見ですが。

──30歳目前にフランスから帰国した時は、そのままの自分でここでもやっていける、という感じはありましたか?

純:そういう風に思う部分もありましたが、根本的にはちょっと違ったと思います。やっぱり積み重なったトラウマがあり、それは今も変わらず持っています。今、日本にいるので、しっかりと解決していかないといけないかなとも思っているんです。

──言える範囲で構いません。例えばどういったトラウマでしょうか?

純:自分は幼い頃からセクシャュアリティの部分で、父などに否定されてきました。そのため、そういう人たちに対してどう振る舞えばいいのか。相手に対してブロックがかかってしまったり、「なにか変に思われてるんじゃないか」と考えてしまったり。セクシュアリティの否定って人間そのものの否定と繋がっているので、相手のちょっとした仕草、例えばなんか見られているというだけで過剰に反応してしまうんです。否定されているんじゃないか、って考えてしまう。

──クリスさんは外国の方ですが、竹田さんが感じているようなジェンダー差別(男のくせに、女のくせに)のようなものを感じることはありますか?

クリス:そこまではないですね。リトアニアも古い考え方の国だからというのもあると思います。男の仕事とか、女の仕事というような、カテゴライズはもちろんありますし。

純:でもリトアニアのご両親は「男だからこうして」とか「女だからこうして」というようなことは言わないよね。

 

クリス:僕には言わないけれど、他人の目を気にするところはあると思う。日本と近いと思います。最近はどうなっているかはわからないけど、僕がいた15年前くらいはそうでしたね。逆に日本に来たら全然問題がなくて。僕が「アウトサイダー」だからでしょうね。


インタビュー後編
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竹田純
「床バレエ協会」代表、バレエダンサー。2000年から東京バレエ団に所属後、渡仏し、フランス国立リモージュ・オペラ歌劇場、スロバキア国立劇場、オランダ国立劇場などのバレエ団に所属。現在は指導者としてテレビや雑誌などで活躍するほか、SNSでわかりやすく効果の高いエクササイズを発信。著書に『バーオソル・ダイエット—バレエダンサーのしなやかな身体の秘密—』(講談社)など。プライベートでは、リトアニア出身でインテリアデザイナーのクリスさんと結婚。グレーハウンドの元保護犬・ビジョンと3人の家族の徒然を綴った動画も人気。Instagram @juntakeda_   @mr.krishome

 

 

<書籍紹介>
『マネしたらやせた!30秒だけ床バレエ』
竹田純 (講談社)

30秒でできる簡単な動きだから続けられると話題の「竹田式床バレエ」のメソッドをわかりやすく紹介した一冊。SNSで30万人超のフォロワーさんたちが「効いた!」と何度も見てくれた再生回数の多いエクササイズを集めているので効果抜群。バレエのメソッドがベースだから上品に痩せられるという点も人気の秘訣。


写真/大坪尚人
取材・文/渥美志保
編集/立原由華里