「11人に1人」と言われるLGBT。その数は実は左利きの人よりも多く、もしかしたらすごく身近にいることを知らないだけかもしれません。Instagramで1億回再生された「床バレエ」で話題の竹田純さんも、そんなひとり。この3月にはフランスで、リトアニア人のパートナー、クリスさんと結婚したことでも知られています。今回そんなおふたりにお聞きしたのは、結婚に至るまでの恋のかけひきと、結婚について。「愛さえあれば制度は関係ない」と思っていたお二人が、結婚した時に味わった意外な思いとは?

インタビュー前編
「『カミングアウト』という考え自体が差別的だと思う」同性婚をした竹田純さん&クリスさんが語る日本、そして未来への思い>>

左:バレエダンサーの竹田純さん、右:純さんのパートナー、クリスさん。

──お二人は日本で4年一緒に暮らしていらっしゃいましたよね。その間は、結婚についてはどんな風に考えていたんですか?

純:結婚に関しては、日本ではできないけれど、いつかどこかの国ではできるんだろうな、というのは思っていました。フランスに住んだ経験があったので、そこでもできる、というのは知っていましたし。私は元々結婚の夢が全く持てなかったんです。そういう当たり前のことができない中で生きていくって、ほんとに人生つまらないんですよ。でも、海外経験を通して「そうじゃない場所もある」と知ることができたので、「まあいつかは」と思えたんだと思います。そしてクリスが付き合ってすぐプロポーズしてくれたので、その時点で自分の目標は達成された、という感じでした。

 

──プロポーズは「言わせた!」っていう感じだったんですね(笑)。

純:はい(笑)。

──クリスさんはどうしてすぐにプロポーズしたんですか? 結婚願望があったんですか?

クリス:純くんが可愛いかったからです(笑)。

純:他の記事では違うこと言ってたじゃない。「純くんに脅されたんです」って。ひどいですよね(笑)。
 

 

クリス:付き合い始めてすぐ一緒に住み始めて、一緒に住み始めたら今度はすぐ、毎日毎日キッチンのところに立って、シングルレディの歌を歌うんですよ。リングくれないなら、どこかいっちゃおうかな、みたいな。毎日毎日。それで観念しました(笑)。もちろんそれだけじゃなく、めっちゃ素敵な人だから。ちょうどクリスマスの日に二人でパーティーしようということで、表参道にプレゼントを買いに行ったんです。頭の中にプレゼントしたい指輪——黒いダイヤの入った黒いリングのイメージがあって、そういうのを見つけたらプロポーズしようと思っていました。あまり見ないタイプのリングだし、見つからないかなーと思ったんだけど、3軒目の店に入ったら眼の前にあって……たぶん純くんのパワーで(笑)。ニューイヤーの時に行ったフィリピンで、プロポーズしました。

 

──竹田さん、やり手ですね……。

純:そうですね、はい。狙ったものは落とすっていうのは、フランスでしっかりと学びましたから(笑)

──でもプロポーズしても、日本では結婚できないことがわかっていたわけですよね。

クリス:プロポーズしたことで「結婚した」ということにしました。日本ではそれ以上はできなかったから。その後に僕の仕事の関係でフランスに一緒に引っ越すことになったんです。引っ越しの目的に結婚はなかったんですが、保護犬のビジョンを迎えて考えが変わってきました。私たちふたりと息子のようなビジョンとの生活が、だんだん家族みたいな感じになっていたから、結婚しようという話に。

純:そうだね。

──それまでの4年間も、意識としては「結婚」だったわけで、制度としての「結婚」はある意味、単なる儀式のようにも思えるんですが、やってみて意味があったと思いますか?

 

純:プロポーズが一番のワクワクで、「結婚する」ことにはそれほどワクワクしてはいなかったんです。でも結婚した時、届けを出したブロワ市の市長の代理の方が「結婚の素晴らしさを多くの人に知ってもらうべく、あなたのような方たちをこれからどんどん受け入れたい」っておっしゃって、その言葉はダイレクトに心に刺さりました。「私たちはあなたの(「同性婚」ではなく)「結婚」を認めますと」言われた時に、本当に感動したのを覚えてますね。

クリス:僕も同じです。明日結婚するという段になっても、「まあでも、もうずっと一緒に住んでるから。結婚しているようなものだし」と思っていたんだけど、市長の代理の方にすごく感謝しました。

 

純:どんな人種も、性別でも、私たちは受け入れますって言ってくださって。フランスの日常にある様々なイライラが1秒で吹っ飛び、フランス人って素敵って思いました(笑)。最高の国です。

──制度があることの良さというのは、どんなところだと思いますか?

純:フランスでアパルトマンを一緒に購入した時も、市役所に婚姻届を出しに行った時も、手続きの人も特になんの反応もなく「結婚するってことね、じゃあ契約者に一緒に入れときますね」と自然に進んでいくんです。

クリス:純くんが書類を持って入り、僕は外で待ってたんです、そうしたらスタッフの人が来て、結婚の手続きですか、あちらになります、と、ホントに自然に。

 

純:おっしゃるように「愛があれば、結婚しなくても」とは思ってたんですが、実際に「受け入れます」と言われた時の感動に、私自身がびっくりしました。結婚したいと思っているカップルに「すごくいいよ」って言いたいんです。

──逆に制度がない日本で、なにか不都合などを感じたことはありますか?

純:例えば日本の役所の手続きで「私たちは結婚したカップルなんですよ」と言っても、対処の方法がわからずに役所の方が困られてしまうこともあります。

でも逆に民間はすごく変わってきてるように感じました。最近、クルマを買って保険に入ったんですね。その時の保険会社は「フランスで結婚している」という風に言ったんです。通常だったら、たとえ一緒に住んでいても戸籍上のつながりがないクリスは、僕の保険には含まれない、他人の扱いなんですね。でもその保険会社は、もしかしたら追加の書類をお願いするかもしれませんが、彼の名前も入れておきますね、と通ったんですね。一般社会は少しずつ変わってきているように感じます。

グレーハウンドの元保護犬・ビジョンは、エクササイズのときもいつも一緒。取材中は大人しく待っており、撮影が始まると動き出してカメラのフレームに収まる賢さにスタッフもびっくり!

──フランスで婚姻関係があると、日本の役所では夫婦として扱ってもらえるんですか?

純:それについて、フランスで結婚する場合の手続きについて、在仏日本大使館とずっとやり取りしていたんですが、 大使館からは「結婚したら必ず申請してくださいね」と言われたんですね。でもその手続書類が「妻になる人」「夫になる人」という記述なんです。これじゃあ書けませんと思った時に、大使館がバカンスに入っちゃったんです……。

日本に帰国してから法務省に電話したら、法務省もどう対処していいかわからず電話口の人が3人ぐらい代わって、最終的には「あなたたちはフランスで結婚してる認識があるんですね、なら申請しなくて結構です」と。つまり結果的に日本では認められてないんですよ。多分在仏日本大使館の人は、私が女性と結婚すると思ってたんですね。同性婚ですとは言わなかった私も悪かったのかも知れませんが。

──でも「同性婚」と言わなければ通じないこと自体に、違和感があるということですよね。「結婚=男女のもの」としか考えていないわけだから。

純:そうです。

──同性婚や夫婦別姓は「社会の理解が まだ追いついてない」という理由で先延ばしにされていますが、日本以外の国では制度ができることで、社会が認知するという発想で導入されているように感じます。


純:日本に同性婚の制度があれば もっと早く私たちも結婚していたかもしれません。私の周辺のほとんどの方は同性婚に賛成なんですが、やっぱり理解してくれない人もいます。でも法律が変われば「そういうものなんだな」と思ってくれる方も増えるかもしれません。

クリス:すごく難しい問題なのでなかなか発言はしにくいのですが、同性カップルが異性カップルと同じようなオプション——「愛があれば制度には縛られない」と「結婚したいと思ったら結婚できる」——が持てたらいいなと思います。

 


インタビュー前編
「『カミングアウト』という考え自体が差別的だと思う」同性婚をした竹田純さん&クリスさんが語る日本、そして未来への思い>>
 

竹田純
「床バレエ協会」代表、バレエダンサー。2000年から東京バレエ団に所属後、渡仏し、フランス国立リモージュ・オペラ歌劇場、スロバキア国立劇場、オランダ国立劇場などのバレエ団に所属。現在は指導者としてテレビや雑誌などで活躍するほか、SNSでわかりやすく効果の高いエクササイズを発信。著書に『バーオソル・ダイエット—バレエダンサーのしなやかな身体の秘密—』(講談社)など。プライベートでは、リトアニア出身でインテリアデザイナーのクリスさんと結婚。グレーハウンドの元保護犬・ビジョンと3人の家族の徒然を綴った動画も人気。Instagram @juntakeda_  @mr.krishome

 

 

<書籍紹介>
『マネしたらやせた!30秒だけ床バレエ』
竹田純 (講談社)

30秒でできる簡単な動きだから続けられると話題の「竹田式床バレエ」のメソッドをわかりやすく紹介した一冊。SNSで30万人超のフォロワーさんたちが「効いた!」と何度も見てくれた再生回数の多いエクササイズを集めているので効果抜群。バレエのメソッドがベースだから上品に痩せられるという点も人気の秘訣。


写真/大坪尚人
取材・文/渥美志保
編集/立原由華里