「それ、優紀さんが決めていいですよ」への戸惑い


――篠塚社長をはじめ、令和トラベルにはリクルート社出身の方が多いと聞きました。テレビ局もバリバリお仕事される方ばかりとは思いますが、スタートアップとの社風の違いに戸惑ったりはしませんでしたか。

 

大木 大企業はどこもそうだと思うのですが、テレビ朝日は社員数も多いので、縦割りで許可を取りながら進行する。役割分担がはっきりしています。企画の立ち上げから取材、当日の撮影のセッティングまでは基本的にはスタッフが準備して、最後にアナウンサーがアンカーとして受け取る役割です。一方、スタートアップはとにかく社員が少ないので、自分で意思決定を下さなければならない場面がとても多いんですね。

令和トラベルに入社したばかりのとき、社長に「どうすればいいですか」と聞いたら、「それ、優紀さんが決めていいですよ」と度々返答されまして。生放送などでアナウンサーがその場で「判断する」ことはあっても、私自身が「決定権を持つ」ことは、この年齢になってもあまりチャンスがなかったんです。私が決めるということは責任も取らなくてはいけないし、周りに理解をしてもらう説明ができないといけない。その一連のことをやってこなかったなと。これについてはいまだに苦手で、課題だと感じているところです。

――テレビ朝日時代に役職に就き、指示する立場に立っていたら、また違う道があったのかな? と思ったりしませんか。

大木 私自身はそういうキャリアを積むことをイメージできていなかったので、それは特にないですね。ただ、自分自身が決定を下す経験がなかったことに加えて、マネジメントをしたことがなかったな……というのは感じます。アナウンス部では後輩に指導することはあっても、マネジメントを担うポジションは限られていますし、年次的にそのポジションに就くことなく私は退職してしまった。そろそろ40代が見えてきたときに経験するであろうマネジメントスキルが、自分にはない。だから、これも今学んでいる最中なんです。

 

「デジタルの壁」に大苦戦、その先に見えたもの

 

――入社当初、仕事のデジタル化になかなか慣れなかったということもYouTubeなどで拝見しました。具体的には何が大変でしたか。

大木 基本的なメールのやり取りやWord作成レベルの技術しかなかったので、Slackでのやり取りとか、あとNotionで資料まとめたりとか、スプレッドシートでのデータ分析など、PCの中に会社全てのツールがあるような感覚に慣れませんでした。でも結局は、「これらはただのツールでしかない。やっぱり大切なのは、人と人とのコミュニケーションなのでは?」と思っています。

デジタルツールについてはいまだに壁ですが、インターン生や得意なメンバーがフォローしてくれますし、私にはもう無理だなと思ったら素直に人に頼って、自分にしかできないことの方に労力を割くようにしています。仕事で大事なのは、自分が積み上げてきたものをどう生かしていくか。やっとそう感じられるようになってきました。

――現在の仕事に、アナウンサーでの経験はどう生かされていますか?

大木 例えば、今回のようにメディアの方に発信することもそうですし、弊社のYouTube動画やいろんなシーンで「話す」「コミュニケーションを取る」スキルが役に立っていると感じています。だから、異業種転職とはいえゼロに戻ったのではなく、やっぱりベースにはアナウンサーとしての18年があるんだなと。そんなふうに、少しずつ呼吸ができるようになっていきました。

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渋谷のオフィスから、海外旅行の新しい楽しみ方を発信する大木優紀さん
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