「パートナー不在」のハードルは残ったまま

 

ただ、採卵という処置を必要とし、毎年、高額な保管料を支払い続けるにもかかわらず、実際に、凍結しておいた卵子を使って出産に至った人はきわめて少ないという現実もあります。

なかなか凍結卵子で出産できないおもな理由は、技術的に無理だからではありません。パートナーを見つけるのが難しいのです。

 

浦安市は、卵子凍結の費用の助成を少子化対策だとして行いましたが、少子化対策としては、長時間労働の改善や若いカップルへの経済的支援など結婚の促進につながる対策のほうが圧倒的に重要でしょう。

考えてみると、パートナーが見つかった場合も、すぐに凍結卵子を使うかといえばそうでもないと思います。すぐに自然妊娠する可能性もあり、その場合は凍結した卵子は要りません。

卵子凍結は生殖医療専門医の「新しい役割」

 

凍結融解後の未受精卵は受精率が低いので、それを使って妊娠するには顕微授精が必要です。それを考えると、自然妊娠のほうがはるかに楽です。妊娠しにくければ凍結卵子を使うかもしれませんが、凍結したものの中によい卵子があるかどうかは、やってみなければわかりません。卵子凍結をした時点ですでに年齢が高かった人たちは、出産を期待できるだけの数の卵子が採れていないことが多いようです。

このように、あまり有効性が高くないこともあって、女性たちも、実施する場合は不安を和らげるための「おまもり」と思っているようです。しかし、今は若い女性の関心度も上がっていて、この目的の卵子凍結を行っている施設は、近年、急激に増えてきています。

これから放射線治療や化学療法に入るがん患者さんが妊孕性(妊娠できる力)を温存するための卵子凍結も、実施施設が増えています。乳がんの発症年齢が下がって未婚の患者さんが増えていることもあいまって、これは生殖医療専門医の新しい役割となってきました。