子育ては親だけでは抱えきれないこともある

子どもと関わる保育士という仕事は専門職で、適性が求められる仕事なのに、親になれば自動的にそれを好きになれるわけがないのです。子育てがすごく好き、向いてるという人もいれば、どれだけやっても好きになれない、向いてないという人もいるのはものすごく当たり前のことだと思うのです。

子育ては大変でも必ず最後は子どもを好きになれる、親として成長できる、いずれ感謝できるようになるーー。そういった思い込みや押しつけが、時に親を追い詰めます。親になること、子育てと向き合うことは、当人では抱えきれないことだってある。子どもや子育てを愛せない人だっている。そういった認識も必要ではないかと思います。
 

子育てに自助を強いる社会は変わるべき

改めて、子どもを産み育てるということは壮絶な苦労をともないます。つわり、お腹の張りや重み、流産の恐れのある妊娠期間、無収入になる期間が発生すること、帝王切開になる可能性を回避できないこと、人生でも最大級の痛みと戦う命がけの出産、産後の体のダメージ、子連れ外出時の世間の冷たさ、子連れへのヘイト、過酷な保活、教育費の負担……。それらを乗り越えても、その後子どもが成長する上で起きるありとあらゆることで自分の人生が様変わりする可能性がずっとある。本当に、子どもを産み育てることは偉業です。

でも、本当に社会は子どもを持つ人に冷たいです。妊婦さんに席を譲らないし、子どもが泣くと怒鳴ったりする人もいる。子育て支援が打ち出されるたび、「子連れ様ばかり優遇されて、独身が無下にされている」なんて言う人たちもいます。しかし、子育て支援が優遇だなんてとんでもありません。実際、チャイルドペナルティ(子育て罰)と言われ、子どもを持つと経済的な損失はとても大きいのです。どれだけ子育て支援をしたって、大きなマイナスをましにする効果しかありません。今の社会では、子どもを持つ人にありとあらゆる責任や負担が集中し、全てを自助で乗り切らないといけないのが現実です。

 

こんな社会でも、子どもが欲しいと思う人がいるという事実は、奇跡のようなことです。社会が存続して、私たちの生活が成り立つためには、誰かが子どもを産み育てなければなりません。絶対に欠かすことができない責務を、莫大なお金と時間と労力をかけて果たしてくれている人たちに生じる負担を、社会全体で分散するべきだと思います。そして、子どもを持った後に耐えきれない苦しみを感じ、後悔が生じた時、それをタブー視せず、受け止められる社会になって欲しいと思うのです。


 

 

『母親になって後悔してる』
オルナ・ドーナト/著 鹿田昌美/訳
新潮社 2200円(税込)

もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になることを選びますか? この質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューし、女性が母親になることで経験する多様な感情を明らかにする。女性は母親になるべきであり、母親は幸せなものであるという社会常識の中で見過ごされてきた切実な想いに丁寧に寄り添った画期的な書。


写真/Shutterstock
文・構成/ヒオカ