「RENAISSANCE WORLD TOUR」より。写真:REX/アフロ

この映画を観るまでは、ビヨンセって自分とは別世界の女性だと思っていました。昔ライブを観たこともあるけれど、いろんな意味でダイナミックでパワフルすぎて、圧倒されてしまう感じがあったのです。そんな、私のようにビヨンセの曲は「クレイジー・イン・ラブ」くらいしか知らない人にこそ、観て欲しい。曲を知らなくても楽しめる、それが「Renaissance:A Film by Beyoncé」。昨年末に公開されたこの作品が、1月にTOHOシネマズ日比谷で期間限定上映を実施中です。その最後の機会が、1月26日(金)・27日(土)・28日(日)になります。


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これは単なるライブ映像ではありません。ビヨンセがアルバム「ルネッサンス」を通じて世界の人々に伝えたかった、愛と平等、自由と真の意味でのセルフラブのメッセージを、彼女のステージと生き様から感じとれる、壮大なドキュメンタリー作品。ビヨンセが着こなすロエベやバレンシアガなどの一流デザイナーによるゴージャスな衣装の数々や大がかりな舞台芸術、ビヨンセが家族と過ごすプライベートでの貴重な姿はどれも一見の価値があり、中だるみすることなく惹きつけられる内容です。

「RENAISSANCE WORLD TOUR」より。写真:REX/アフロ

169分という長編でも観ていて飽きない理由は、ひとつには今回の6年ぶりの単身ツアーの完成度が恐ろしく高いこと。もうひとつは、ビヨンセの気高い志と生き方から勇気をもらえること。

オープニングでステージに登場したビヨンセが涙ぐんで感動している理由が最初はよくわからなかったのですが、先に進むうちに徐々に理解できるようになっていきます。

 


ライブでかっこ良くて力強いダンスを見せてくれていたビヨンセが、実はツアー前に膝を負傷し「私だって人間なのよ」と嘆きながら痛みを堪え、最高のパフォーマンスを披露するために私生活を犠牲にしながらツアーに備えて来たこと。妥協しない舞台を作り上げたいのに、黒人で女性だということで始めは思い通りに動いてくれないスタッフもいたこと。

またデビュー当時には、声帯が潰れるほどレコーディングで歌わされて、もう二度と歌えなくなるのではないかと怖かったこと。昔は黒人女性アーティストだからとデザイナーたちからは衣装提供を断られ、服飾デザイナーだった叔父と母親が作ってくれた衣装を着ていたこと。

「RENAISSANCE WORLD TOUR」より。写真:REX/アフロ

過去に味わった数々の屈辱や挫折を乗り越えて、スタジアムいっぱいのファンたちに迎えられてこの場に立っているビヨンセ。

「42歳の今がいちばん私らしく自由に生きられていて幸せ」。そう語る彼女は、どんな人でも安心して自分らしさを発揮して生きられる場所を提供したいと、才能ある若者やマイノリティのダンサー、シンガーたちを発掘して自分のツアーのステージに立たせます。「分断や対立ではなく愛を循環させたい。誰もが自分らしく個性を輝かせて生きるべき」。このツアー自体が、そんなビヨンセのルネッサンス=芸術革命なのであります。

 
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