平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。


前回のあらすじ地権者枠で予期せぬ豪華タワーマンション物件を手に入れた紗耶香。周囲に流されて息子の陽一を中学受験塾に通わせているが、経済的な格差や振るわない成績に頭を悩ませている。ある日、ママ友たちが皆羨む優秀児の母・ゆかりを交えてマンション仲間とお茶会になり……?

前回記事「平均2億円超のタワーマンションで、中学受験ママ友グループLINE8人。少しずつあらわになる格差が心にヒビを入れて...?」>>
 
 


第60話 豪華な幻想【後編】

 

「えー、それじゃゆかりさんのところは大手塾が週3回で、家庭教師が週2回、個別塾が週1回!? 光輝くん、暇な日は毎週1日だけってこと? さすが最上位クラス常駐!」

ママ友たちの羨望と少しの非難、ひとさじの嫉妬を込めた言葉は、ホテルのラウンジで大きく響いた。

日頃は「医師の仕事で忙しいから」と、私たちのタワーマンションで同じ小学校、大手塾に通う仲間のLINEグループに入っていないゆかりさん。息子の光輝くんの成績には誰もかなわず、独走態勢。ゆかりさんの少々社交性を欠いた振る舞いと、どう逆立ちしてもかなわない子どもの成績に対して、私たちは羨望とやっかみを込めて噂をしている。

そんなゆかりさんが、今日は塾の保護者会のあとで捕まった。塾からマンションは徒歩10分ほどだが、その帰り道にあるホテルのラウンジで、みんなでお茶をすることに成功。

これ幸いと、日頃謎に包まれた親子の勉強法を尋ねると、ゆかりさんはさして隠す様子もなく、1週間のルーテインを明かしてくれた。

彼女の美しいスタイルを際立たせるシンプルで上質なワンピースは、流行を取り入れたカジュアル感のあるほかの母親の服装と一線を画し、自信と迫力に満ちていた。耳元に、小豆ほどのダイヤの一粒ピアスが光っている。

「日曜日の午前中はコーディネーターが来るから、正確には、完全に暇な曜日はないけれど」

ゆかりさんが涼し気にそう答えると、皆は一斉に前のめりになった。

「コーディネーターって噂の御三家合格請負人ですよね? SNSで噂を見ました、受け持った生徒の御三家合格率は100%って本当ですか!? それって今から紹介していただいたり、選抜試験を受けたりすることって可能なの?」