反発と擁護


前のめりな「中受ママ」たちの質問に、ゆかりさんは小首をかしげて紅茶を一口すすった。

「まさか。私がその先生にコンタクトしたのは、子どもが6歳の頃よ。人を介して、なんとか会ってもらったの。独自のテストを受ける必要もあるの。地頭に見込みがないととってもらえないわ」

言いにくいことをはっきり言う。母親たちは、鼻白んだ表情でソファの背もたれに体を預けた。

「あーあ、それじゃ私たちには最初から勝ち目なんてないってわけねえ。いいなあ、光輝くんは」

つまらなそうにつぶやく梨絵さんの言葉の矛先がゆかりさんに向いている気がして、私は反射的にたしなめた。

「そんなことないよ、結局はさ、光輝くんが頑張ってコツコツ勉強してるから成績がいいってことだよ」

 

私はゆかりさんのきっぱりとした物言いが嫌いじゃない。きっと彼女はその情報と今のポジションを得るためにさまざま手を尽くしてきたはず。簡単に紹介したり便宜を図ったりを頼むのは失礼な気がしたし、ましてやしてくれないからといって不満そうにするなんて、八つ当たりみたいなもの。

――それに、週7日、時間もお金も中学受験に注ぎ込むなんて……うちにはそんな余裕、ないしね。

スマホの待ち受けにしている陽一の小学校入学式の写真。その笑顔は天真爛漫という表現がぴったり。いくら大手塾で下のほうのクラスだからといって、世の中の小学生平均からしたらすごい位置につけているはず。

私は小学生のときはなにもせずに遊びまわっていたし、さらに言えば大学にも行っていないから受験勉強らしいことはした記憶がない。

このママ友グループも、医師になったゆかりさん以外は、さほど自分は勉強を熱心にしてこなかった人が大多数だろう。そういうのは会話の端々でなんとなくわかる。それなのに子どもに過度なお金と期待をかけすぎというものではないか。

お茶会は、なんとかゆかりさんから最上位の心得と戦略を聞き出そうとするママ友たちのインタビュー会場となっていた。私はなんとなく居心地の悪さを感じながら、聞き役に徹している。

 


それは吉か凶か


「あら、こんばんは」

買い物を終え、塾のお迎えまえに15分ほどあったけれど、エレベーターで部屋に戻るのも億劫でマンション1階の共用ラウンジに入る。そこには読書をしながらコーヒーを飲むゆかりさんの姿があった。