米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

【シネマコレクション・6】<br />ガンを宣告された父との日々をポップに描く『人生はビギナーズ』_img0
Focus Features / Photofest / ゼータイメージ

登場人物たちがそれぞれに重いものを背負っているけれど、つらいだけではなくて、ちょっと笑わせてくれる映画。私はこういう涙と笑いの両方が描かれている作品が好きなんだなぁって、『人生はビギナーズ』を観てあらためて思いました。

38歳の主人公が、ガンを宣告された父親に突然「僕は本当はゲイなんだ」とカミングアウトされる物語は、なんと監督の実体験から生まれたものだそう。だからなのか、まるでドキュメンタリーみたいにリアルな場面がたくさんあるんです。たとえば父親がかわいい豆皿みたいな器に薬をのせて、飲み終わるたびにチーンと音を立てる場面。治療に対して前向きなことも伝わってくるし、とても愛らしいんだけれど、いちいちこれをやられたら家族は大変! 私の父親もガンだったから、小さな場面でもそうそう! って共感しながら観ていました。

スターというよりもすぐ隣にいそうな雰囲気を漂わせているユアン・マクレガーも、ゲイにしか見えないクリストファー・プラマーも、人間味あふれる演技ですごくよかった。メラニー・ロランの肌がきれいに撮られていて、日本映画とは違う照明の当て方にも感心しました。アートディレクターとして働く主人公が描くイラストが効果的に使われていたり、愛犬の言葉が字幕で出てくる仕かけがあったり、監督のポップな世界観もかわいかったですね。

最期のときを自分らしく生きる父親に影響されて、仕事でも恋でも大人になりきれていなかった臆病な主人公が少しずつ変わっていく。その成長を見れば、いま何か悩みを抱えている人でも「きっと私も大丈夫!」と思えてくるはずです!

『人生はビギナーズ』
母に先立たれた5年後、末期ガンに冒された父親に「私はゲイだ」と宣告された38歳のオリヴァー。若い恋人を作り、人生を謳歌する父との時間は、自分の殻に閉じこもりがちなオリヴァーにも影響を及ぼしていく。父との別れを経て、自由奔放な女性、アナと恋に落ちるが……。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2012年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。