米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

The Weinstein Company / Photofest / ゼータイメージ

『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』を観て思ったのは、女性が政治の世界で生きていくには本当に強靭な精神力が必要なんだなということでした。

結婚をするときも「家事をして一生を送るつもりはない」ときっぱり宣言。政治家としての生き方を貫くために家族との時間を十分に持つことはできないし、家に爆弾をしかけられたり、危険なこともたくさんある。ひとつずつあらゆる困難を乗り越えていくサッチャーを見ながら、正直、女性としてここまで強くはなりたくないなと思うところもありました。

メリル・ストリープはとても好きな女優さんですが、今回はサッチャーではなくてメリルにしか見えないシーンもあって、そこはちょっぴり期待外れだったかもしれません。

この映画を観て女優としてあらためて感じたのは、実在の人物を演じることの大変さです。有名な人であればあるほど知っている人がたくさんいるし、くらべられてしまう。もう亡くなっている人だと会って話を聞くこともできないから、生前に交流のあった方に話を聞いたり、残っている映像を見たり、本を読んだり……。そうやってリサーチをするのはもちろんのこと、本物らしく見せつつ、そのまた先の壁を越えていかなくちゃいけないんですよね。

私もドラマで女優の杉村春子さんを演じさせていただいたことがありますが、本当に緊張しました。そのとき森光子さんに役作りについて相談したら、「目をつぶってみて。大丈夫よ」と言いながら頭をなでてくださって。これで少し安心して、プレッシャーを感じながらも、なんとか演じることができたんです。ただのものまねではなくて、魂まで見せていくこと。この映画は私に、その大切さを感じさせてくれる映画でした。

『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
最愛の夫と死別し、子どもたちも独立したため、ひとりで晩年を送っているマーガレット・サッチャー。認知症を患いながら、彼女は過去のことを回想しはじめる。メリル・ストリ ープとは同じく『マンマ・ミーア!』でも組んだ女性監督、フィリダ・ロイドが手がけた。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2012年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。