米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。
今回のオフィス・ヨネクラは、“大人の話”をします! と宣言したのは、紹介する『シェイム』の主人公が、セックス依存症を抱えている男だから。
誤解を招く言い方かもしれないけれど、私の周りの男性を見ていると、こういう人、いっぱいいるんじゃないかな? と思うんですよ。
映画を観る前は、もっとずーっとセックスのことばかり考えている人の話なのかと想像していたけれど、男の人だったら、電車のなかでかわいい子を見てついつい妄想しちゃうとか、インターネットでエッチなサイトや雑誌を見るとか、当然のことだよねって思っちゃったんです。
バーで会ったばかりの女の子の瞳の色を当ててナンパするシーンもなかなかクールで、私だってこんな風に声をかけられたい! と思ってしまったほど(笑)。
たぶん彼はいわゆるセックス依存症という名前がつく病気じゃないということが、ストーリーが進むにつれて少しずつ見えてきます。
3人でセックスするシーンがすごく長く感じられたのは、伝わってきたのが快楽ではなくて寂しさやつらさだったから。
気になっていた同僚とレストランで食事と会話を楽しむところは、この映画のなかの数少ないちょっとユーモアの利いたかわいいシーンです。
だからこそ、後日彼女をホテルに誘ったのに“恋人同士のセックス”ができないシーンは、こんなとき男性はどう思うものなんだろう? なんてことを考えながらも、胸が痛みました。
主人公はきっと、体だけの関係ならセックスできるのに、精神的なつながりを求めたセックスは上手にすることができない男なんですね。なぜ彼がそうなってしまったのか?
独身の主人公の家に自由奔放な妹が転がり込んできたときから彼の様子が変わっていくところを見ると、妹の存在が鍵を握っているのかも。でもラストまで観ても、はっきりした 答えは用意されていません。
私も試写室を出たときからモヤモヤしたものが胸に残っているんです。この映画を観た人と主人公の“シェイム”の真相について話し合ってみるのも、この作品の楽しみ方のひとつかなって思います。
このページは、女性誌「FRaU」(2012年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。
『SHAME ―シェイム―』
ニューヨークで気ままな独身生活を送っているブランドン。セックスのことばかり考えて暮らしている彼の毎日が、妹が転がり込んできたことで乱されはじめる。各国の映画祭で話題を呼んだ作品が日本公開に。マイケル・ファスベンダーとキャリー・マリガンの体を張った芝居も注目を集めた。