米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。
ジョージ・クルーニーは、できればお付き合いしていただきたい! っていうくらい好きな好きな俳優です(笑)。ダンディなイメージの彼がこんな役をやるんだ! という驚きがあるのが、アカデミー賞でも主演男優賞にノミネートされた最新作の『ファミリー・ツリー』。
ジョージが演じたのは、オアフ島で働く弁護士。ふたりの娘にも囲まれてそれなりに幸せに暮らしていたはずなのに、ボート事故で昏睡状態になった妻が浮気をしていて、離婚を考えていたことが発覚してしまうんです。
ダメなパパを演じるジョージは歩き方や座り方もどこかゆったりしていて「ハワイのアメリカ人って、こういう感じ! まさに“地元の人”」というリアリティがありました。サンダル履きのまま、笑っちゃうくらいかっこ悪く走り出すシーンもあるんですよ。
この映画の素晴らしさは、誰かひとりだけではなくて、どのキャラクターにも共感できるバランスのいい作りになっているところ。我が家の場合は父が闘病していたので、看病していた母の気持ちもわかるし、生意気な娘を見ると、両親が大変な時に私もやんちゃしていたな、なんて思い返したりもして。
彼女のボーイフレンドがまた図々しくて、空気が読めないのに憎めないタイプ(笑)。最初はジョージパパともギスギスしていたのに、一緒に時間を過ごすうちによき相談相手になっていく。そういうフランクさはアメリカ人ならではだなって、ちょっぴりうらやましくなりました。
それと、主人公は土地の相続の問題も抱えているのですが、程度の差こそあれ、どこの家にも同じようなことはよくありそう。家族や親族との関係を見ながら、人はひとりで生きているわけではないから、簡単には死ねないものなんだと思いましたね。
最後まで観て感じたのは、この映画の舞台がハワイでよかったなということ! もちろん冒頭のナレーションにもあったように、ハワイはただピースなだけの楽園じゃなくて、不景気の影響もありますよね。でも同じ物語をパリやイギリスで描いたとしたら、もっと暗いお話になったと思う。
家族が一緒に包まるハワイアンキルトのブランケットや、散骨するときに海に浮かぶレイも美しくて、絆を感じさせる素敵な場面になっていました。私にとっては久々にじっくり観られる、涙と笑いがいっぱいのヒューマン・ドラマでしたね。
このページは、女性誌「FRaU」(2012年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。
『ファミリー・ツリー』
ハワイ、オアフ島。弁護士のマットは、事故で昏睡状態となった妻に恋人がいたことを知る。娘たちとともに、ほどけてしまった絆を取り戻そうとするが……。『サイドウェイ』の監督が脚本も手がけ、アカデミー賞脚色賞を受賞した苦くて温かい家族の物語。