人々が太陽と戯れる季節、リトアニアの夏は光と花に満ちて、町ゆく人たちはとても楽しげ、爽やかな季節を満喫しています。夜11時ごろまで太陽が沈みませんから、光の乏しい冬の分までこの短い夏の間に太陽と仲良くしておきたいのが人情というもの。そうはいっても夜8時になれば暗くなる日本から着くと、終わらない1日の感覚に、はじめは少し戸惑います。写真を生業とする私は、夜遅くなっても沈まない太陽のおかげで夕食の後でも外で写真が撮れてしまうので(もちろんそれは有難いこと)、何時迄もカメラをしまうことができません。日が落ちかかっている時の斜めの低い位置から差す光の美しさ、影の長さはそれはそれはドラマティックです。
ヴィルニュスの旧市街はヨーロッパでいちばん大きく、非常に景観が美しいことで知られています(世界文化遺産)。石畳の小径が広くなったり細くなったり、道に振り回され始めたなと思ったら教会に行き当たったりと、歩がとても楽しいのです。何より、観光のために整えられたというより、土地っ子がちゃんと街と親しみ、共生しているのが素敵で、それが一番のチャームポイントと言って良いでしょう。
ぐるぐると迷いながら細くカーブした道を巡っているとリネンの織物を置くお店に出会ったり、古本屋カフェを見つけて掘り出し物の画集や写真集を眺めたり、あぁ、全く、時間が足りなくて困ります。
そんな素敵な旧市街の中で、是非とも立ち寄っていただきたいのが国立ヴィルニュス大学の構内です。町歩きの途中にするっと入っていける便利な立地ですから、特にこの場を目指すことなく、近くを通ったら是非中を覗いてみて欲しいです!1579年創立、ヨーロッパ内でも歴史の古いこの大学は、一般公開されている場所を見るだけでも、その特別な存在感に驚きます。まるで美術館か貴族の宮殿にでも迷い込んだかのような雰囲気、こんな空間ならば、学生たちの学びへの意欲も大いに高まることでしょう。教会、古書室、書店(購買部)など、どちらも重厚な趣で美しく、尚且つ現役の施設であるとは本当に素晴らしいことです。
その中でも異彩を放つのが言語学部講堂の2階にあるホール。天井、柱、壁面と余白なくシュールなフレスコ画が広がっています。題して「四季」。人物は全員裸、あらゆる人間の営みが描かれ、あたかも曼荼羅のようです。このフレスコ画はリトアニアで古くから根強く支持される自然信仰を表したもの。キリスト教伝来以前のリトアニアでは、日本と同じく自然が人々の信仰の対象でした。その発想はいまも根強く彼らの生活や精神に宿っていて、表現に規制があったソビエト時代に制作されたこの絵画の中では、「四季」を現しながらも、リトアニア人の心の奥底に受け継がれてきた自然への尊敬、崇拝を描いて、民族の精神性を語っているのです。
リトアニアは耐える時代が非常に長く続いた国ですが、物静かな中にも希望を捨てない、根っこにタフネスを持った国民がこの国の「今」を築きました。あの時代にこの作品を大学のホールに描いてみせた心意気が憎い、心に沁みてきます。そんな当時の表現者に深い敬意を感じます。
\リトアニアはこんなところ/
人口 281万人
首都 ヴィリニュス
面積 65000㎢
国教 主にカトリック
言語 リトアニア語
通貨 ユーロ(2015年から)
【日本からのアクセス】
直行便はなく、成田・名古屋・関西空港から、ヘルシンキ経由でヴィリニュスまで毎日就航。乗り継ぎ含め12~13時間程度。
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