ここがイノベーション
ZOZOスーツはこうした問題をテクノロジーで解決しようとしている。今回、配布を開始した採寸スーツは伸縮性のあるデザインとなっており、各部分の生地の伸び具合をセンサーが検出することで、約1万5000カ所のサイズを瞬時に計測できる。
採寸データはスマホのアプリを経由してZOZOのクラウドに送られ、ZOZO側はそのデータを使ってサイズに合った洋服を提供する。
このデータがあれば、基本的にサイズの合わない洋服を買うことがなくなるので、利用者は服のサイズで悩む必要がなくなる。一方、ZOZO側にとっては返品リスクが減るとともに、顧客の囲い込みにもつながってくる。
だが、このスーツがもたらす最大のインパクトは、店舗に行かなくても自分に合った洋服を購入できるという部分だろう。
アパレル業界にとって店舗というのは、もっとも重要なビジネス基盤だったが、それはサイズを合わせなければ服を買えないという物理的な制約条件がベースになっていた。こうした制約条件が消えてしまうと、場合によっては店舗がただのお荷物にしかならない可能性も出てくる。
ここで「服にはお店で選ぶ楽しみもある」といった嗜好品的な要素は持ち出さない方がよい。確かにモード系の服であればそうかもしれないが、ZOZOが提供する商品はあくまでベーシック系である。この分野は業界におけるボリュームゾーンであり、購入者の大半は必要に迫られて服を買う人たちだ。
この話はクルマの自動運転システムと同じ文脈で考えればよい。数年前、自動運転システムが現実的な視野に入り始めた時、クルマには運転する楽しみがあるので自動運転車は普及しないという意見が散見された。だが「運転する楽しみ」という価値観は、自身で運転しなければクルマを動かせないという物理的制約条件がベースになっている。
こうした制約条件があったからこそ、これを楽しみに変えるといった発想が出てきたのであって、その逆ではない。クルマを運転する必要がなくなった時、こうした嗜好品的な要素がどれだけ残るのかは微妙なところだ。ほとんどの利用者にとって、クルマは自動で動いてくれた方があり難いだろう。
同じ考え方を採寸スーツに当てはめた場合、一部の商品を除き、わざわざショップに行きたいという人は減ってしまう可能性が高い。
ここにも人工知能が
採寸スーツが普及してサイズの問題が解決されても、服のネット販売には最後の障壁が残されている。それは「似合う」「似合わない」という問題である。
今回、ZOZOがスタートした定期購入サービスでは、同社と契約したコーディネーターが洋服のチョイスを行う。同社では新しいサービスに対応するため、多数の在宅コーディネーターを募集している。
せっかくの新しい取り組みに水を差すようで申し訳ないが、近い将来、こうしたコーディネーターの多くは不要となるだろう。なぜなら、似合う、似合わないという感性に関わる部分にもテクノロジーが入り込んでくるからだ。
Comment