「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップする連載。
前回に引き続き、経済評論家であり『お金持ちの教科書』でお馴染みの加谷珪一さんの100年時代のマネーシフトをお届けします。

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寿命100年時代の資産運用


寿命100年時代の人生設計について論じた書籍『ライフシフト』(東洋経済新報社)が話題となっている。日本は徐々に順位を落としつつあるものの、世界有数の長寿国家として知られる。2050年には女性の平均寿命が90歳を突破する見通しであり、日本人にとって寿命100年という話は決して誇張ではない。

従来の教育、雇用、社会保障の制度は、寿命が短かった時代を基準に設計されており、寿命100年時代にはうまく機能しない。本書でも指摘しているように、若い時は勉強に励み、会社に入って仕事に邁進し、定年後は引退するという従来型の人生設計は見直しが必至である。

長寿社会の到来については、経済的な面などでとかく暗い話題になりがちだが、必ずしもそうではない。テクノロジーのめざましい進歩によって、高齢化に伴う問題の多くが解決できる道筋が見えてきている。これからやってくる長寿社会は、むしろ知的快楽を謳歌できる時代となるだろう。

本連載では、寿命100年時代を見据え、働き方、資産運用、日々の生活などについて、どうすれば有意義な人生を送れるのかについて論じていく。今回は、多くの人にとっての関心の高い資産運用について取り上げてみたい。

定年後に資産運用を、が「遅すぎる理由」_img0
 


定年後に運用を、では遅い


これまでは、定年まで働き、会社からもらった退職金と年金をうまく組み合わせて老後資金を確保するというのが一般的な考え方だった。多くの人が80代の前半までに亡くなるという状況であれば、こうした考えはそれなりに機能するシステムといってよいだろう。

だが、人の寿命がさらに延びることになると、長い老後の期間を退職金と年金だけで暮らすというのは、よほどの貯蓄がなければ難しい。

しかも日本の公的年金は、現役世代が高齢者を支えるという賦課方式となっており、高齢化時代には機能不全を起こしてしまう。寿命100年時代を見据えた場合、老後資金の確保について、根本的に考え方をあらためる必要が出てくるのだ。

寿命が延びることと平行して、仕事のキャリアも単線から複線に変わり、生涯労働が当たり前の時代がやってくる(老後資金や働き方などのテーマについては次回以降の連載で議論したい)。老後資金の確保や資産運用もこうしたキャリア・プランを前提にするのが自然である。

このような状況において、最初に捨て去るべきなのは「本格的に資産運用を行うのは退職金をもらってから」という従来型の価値観だろう。

これは、定年後には仕事をせず、年金でカバーできない分については貯金を取り崩すという考え方が(無意識的に)前提となっている。資産運用はあくまで年金の不足を補うものという位置付けである。

だが、生涯労働が当たり前となれば、生活資金は常に働いて稼ぎ、運用も日常的に行うという考え方が主流になってくるはずだ。これは、若い人の資産運用の考え方と同じであり、定年(もしくは年金支給開始)後に運用を始めるという時間軸は意味を失うことになる。