誰の家にも、その家庭でしか通用しない
身内語録が存在すると思う。
我が家にも、まかり通る言葉がある。
この語の生みの親は、叔母で、
それが母に伝播し、私も使うようになった。
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【アナレス】
[慣用句]他人のふんどしで相撲をとる、の意。
“another wrestling pants(アナザー レスリング パンツ)”(※注1)の略。
※注1:叔母による意訳。
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“他人のふんどしで相撲をとる”ような、
調子のいい人を極端に嫌う叔母は、よく
「それって、“アナレス”じゃない?」と皮肉を込めて言う。
その言葉と共に、私は、
自分は“アナレス”な人間であってはならない、と
刷り込まれてきたように思う。
仕事をするようになって、
仕事は、他人のふんどしの使い合い!の連続と感じる。
最初はそれに慣れず、自分が
爆発してしまうことが多々あった。
しかし、そこに、きちんとした関係性があって、
お互いに得になる“アナレス”ならば、
大いに利用すべきである、と気がついたら、
ずいぶんと楽になった。
そして、誰かのふんどしを借りたら、
いつか自分のふんどしを差し出す。
幸運なことに、夫は、その言葉をすんなりと
理解できる人だった。
他人を自分の利益のために利用することを嫌い、
むしろできないタイプ。
それで損をしてきたこともある。
ですが、最近は、自分の撮影の仕事に
ちょっとした小道具が必要だったりすると
さりげなく「こんなものないかな〜?」と
尋ねてきて、私がいそいそと用意する。
反対に、私の仕事に、写真家の夫のコレクションを
拝借することもある。
「おまえのものはオレのもの。オレのものはオレのもの」。
ジャイアン的精神である。
ですが、家族間において、それはアリである、と思う。
家族は、「他人」ではないですから。
そんな身内語録だが、
その乱用には、要注意!である。
叔母の夫が、ある公の会議で、つい、
「それは、アナレスですね」と発言し、
その場にいた全員の頭に「?」マークが浮かんだ、
という逸話もある。
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