木村拓哉&二宮和也ダブル主演で話題の映画『検察側の罪人』を見たわけですが、ああ、こういうこと言うとすごく怒られるかもしれませんが、まあ怒られても言っちゃうわけですが、私がキムタクを苦手な理由(ていうかイメージ)が凝縮されたような作品でした。

「正義」を口にする人が、どれだけインチキか_img0
『検察側の罪人』上巻・雫井 脩介(文春文庫)、同 下巻

私がキムタクを苦手な理由とか、全世界的に誰一人として興味がないとは思うのですが、そこをあえて口にするなら、強すぎる「デキる男圧」(できる男が発散する圧力←今作りました)です。通常のイケメンが持つ「イケメン圧」(美しさで周囲を圧倒する力←今作りました)は何かしら緩衝材のようなふわっとしたものに包まれて放出されています。それは例えていうならクリームチーズと一緒に食べるイブリガッコで、クリチでイブリがほどよく緩和されてるから安心していただける、みたいな感じなのですが、キムタクの場合は、クリチがないために口に入れた途端に強烈なイブリがガツンとくる、ガツンときすぎるので「うわあ、1枚で大丈夫です」みたいな気持ちになります。

そのむき出しのイブリじゃなかった「イケメン圧」は、想像するに、その根本に彼のストイックさとか強さとか仕事に対して「こうあるべき」と思うことの多さ、つまりは「デキる男圧」があり、それが人間のあらゆる要素を強調してしまう”美しさで周囲を圧倒する力”と相まって、最強の「デキる男圧」になっている――気がしますね、いやほんに、※私の個人のイメージ※(怒られないように※)で。

もちろんそういう部分をこそ「ステキ……」と思う人はたくさんいるのでしょうが、私のようなズボラと雑が服を着て歩いているようなタイプからすると、なんか一緒にいたら(一緒にいたことないけども)極度の緊張を強いられそうな、端的に言うと、なんか怖い感じ。なんも知らずに「ちーっす」とか挨拶したらぶん殴られはしないだろうけど、少なくとも最強眼力で睨まれそうな、生涯軽蔑されそうな気がしてしまいます。(あくまで※個人のイメージ※で。)


一番やっかいなのは「デキる男」のパワハラ


でもってこの「デキる男圧」を役の一部としていかんなく発揮し、すばらしくハマり役になっているのが今回の映画でキムタクが演じているエリート検事・最上毅。「あのキムタクがよくぞこの役を」と思わせる、俳優・木村拓哉の気迫すら感じさせる役です。この人本来的には素晴らしい検事なのですが、ある事件をきっかけに暴走し始め、捜査を意図的に真相とは別の方向へと誘導してゆきます。二宮和也演じる検事・沖野啓一郎はこの部下で、どうにか事を荒立てないように軌道修正しようとするのですが、捜査関係者はもろとも「デキる男圧」に屈しており、最終的にはまともな仕事ができなくなりあえなく退職。

私は思いました。これぞ「王道パワハラの一丁目」じゃないかしら、と。ニノ検事がまともでしっかりした子だから自分から退職できたわけですが、エリートになれなければ価値がない、とか、家族を養うために組織を出るわけにはいかない、という人だったら。狭い世界の中で追い詰められ、「この人に従わなければ未来はない」という盲目的に従う関係性ができてしまうかもしれません。

「正義」を口にする人が、どれだけインチキか_img1
Photo by Ben White on Unsplash

ジャパン・ビバレッジの「有給チャンスメール」とかはまさにそういった状況の典型ですが、最近のパワハラ関連の事件は「パワハラ」が子供じみた「社内イジメ」みたいに思われている気がして、それはそれであんまりよくない気がします。

というのも本当にやっかいなのは、キムタク演じる最上検事のような「デキる男」がやるハラスメントで、「会社のため」とか「世の中のため」とか「お前のため」といった、いかにも「正義」っぽい理由のもとに行われるものだと思うからです。ホットなところでは日本体操協会における、塚原千恵子(選手時代に輝かしいレジェンドを持つ)強化本部長による宮川選手へのパワハラ事件なんか、まさにこのパターンと言う気がします。こういう場合に日本人は「そういうことなら仕方ない」「必要悪だ」とか言っちゃうところがあり、「会社の一体感のため飲み会は義務参加」「理不尽に耐えるのも成長のため」「エッチな会話も職場の潤滑油のひとつ」とかいう理屈がまかり通ったりする。もし自分が耐えられずに会社側に訴えたとしても、「デキる男」は「会社のために、彼を処分するわけにはいかない」。わあああ、「会社のため」ループで、下の人間は逃げ道ないじゃないの。

「正義」を口にする人が、どれだけインチキか_img2
Photo by Lukas from Pexels 

そしてフリーランスの私が「いやいや、ありえない!」と驚くそうした状況に対し、組織にいる友人たちは真顔で言ったりする。「でもそういうものだし、仕方ないんだよ」。こういうことが日常的にあることで、ジャパン・ビバレッジ事件の最大の衝撃、「有給チャンスメール」に「“これで有給が取れるかも”とつい喜んでしまった」とつい言っちゃう社員が完成しちゃうんだろうなあ。

さて映画は原作小説にはない要素、戦後世代には耳慣れない「インパール作戦」について何度も言及しています。これは当初から無謀!無理!と言われていた作戦を、立案したアホ司令官が強硬に主張し、組織がそれを「まあそこまで言うなら」と容認したことで、投入した陸軍8万人の大半が餓死・病死(戦闘死でなく!)したという史上最大の失敗作戦です。そのアホ司令官・牟田口さんの言葉がこちら。

「皇軍は食う物がなくても戦いをしなければならないのだ。兵器がない、やれ弾丸がない、食う物がないなどは戦いを放棄する理由にならぬ」

「会社のため」の先には「国のため」があるのは言うまでもなく、そういう正義っぽいこと言う人がどれだけインチキか、この映画を見るとよーくわかります。まあ「正義」ってカッコいい言葉だし、口にすると自分が正義になったような自家中毒を起こすのかもしれません。言わんどこ。