同じ体型で同じ好みを持つ数十年も前の誰かと自分が、この服で繋がっていると考えただけでひとつのファンタジーな物語でも妄想できそうで、なんだかドラマティック。誰とも被らない優越感やどこかこなれて見える風合い、その服が持つストーリーにも魅力を感じるようになり、いつの間にかクローゼットの半分以上をヴィンテージものが占めるようにまでなっています。


「それならヴィンテージショップ、行ってみない?」
夫のこの言葉がなかったら私は今、どんな服を纏っているのだろう。

互いにワンピーススタイルが好みだったこともあり、付き合い始めてから数年、デートがてらのウィンドウショッピングで出会ったワンピースを彼は毎月1着、プレゼントしてくれていた。
ところが、アレンジの幅が狭く、街で人と被るとなんだか気恥ずかしいと、このありがたいはずの“月イチワンピ”制度にかなり早い段階で飽き始めた私。
「もうワンピースいらないかも」と伝えた時の彼の返事がこの言葉だ。


なんとなく好きなものはあるけれど、どんな服が好き?と聞かれるとはっきりとはわからなかったこの頃。
割と流行にも流されがちで、雑誌だけでなく身近な人や自分の書いたファッション記事にさえ影響されたり、付き合う人の好みに合わせたりと、自分のスタイルが定まらず右往左往していた。

そんな時期真っ只中に初めてヴィンテージショップに連れて行かれたものだから、並んでいる服を見てもどれが素敵なのか全く見当がつかないし、試着してもそれがいいのかもわからない有り様。
トレンドとは関係のない商品が並んでいるだけに、どこかで得た誰かによるファッション情報なんて使えない。
店員さんも、こっちがお似合い、なんて勧めてきてはくれない。
自分の感覚だけが頼りの場で、いかに自分が「好き」の感覚を閉ざしていたか思い知らされた気がした。

でも実は、ヴィンテージショップという独特な空間への緊張感が溶けて、1着ずつ丁寧に見られるようになってくると、それぞれの服に粋な特徴がきちんとあって、これ気になるな、なんだか素敵、と素直な感情が芽生え始める。
さらに、しっくりするものと出会えた時の底から湧き上がる幸福感はこれまでとは全く違う。
言うならば、とても好みの味のワインを偶然口にしたときのような。
または飼うつもりのなかった子犬に運命を感じたときの出会ってしまった感。

誰からの目でもない、今の時代に合っているかも気にしない、ただ自分が好き!と心から思える格別な姿が鏡に映る。
そう、このワクワク感!これが本当のショッピングの楽しみ方だ。

出会う感動を知り、その楽しさもわかってきて、ヴィンテージ服の魅力にハマり始めた頃、面白い現象が。老若男女、知り合いだけでなくなんと道端でも、着ている服やスタイルを頻繁に褒められるようになりました。こんなことは初めてで驚いたけれど、同時に少しずつ、自分の服選びに自信がつくきっかけにもなった大切な出来事です。


こうして繰り返し通い始め、服を見たり試着したりしているうちに、いつの間にか、流行とは関係なく、形やディテール、色、柄といった好みや自分に似合うものが自然と見えてくるようになり、自分の感覚を素直に信じられるようになった。
ヴィンテージか否かにかかわらず、どんなお店でも、瞬時に自分の「好き」を選べるようになったのも、このヴィンテージショップ通いのおかげのような気がする。
ヴィンテージショップは、私がファッションより服を好きになったきっかけを与えてくれたものであり、同時に今は、前回のコラムでも書いた、自分の感覚を呼び戻す店、のひとつともなっている、大切な場所なのだ。

さて、貴女は自分の好きなスタイルをどんな方法で見つけていますか? 何にも流されない「好き」がありますか?

<特集> 白澤さんと巡るヴィンテージショッピング
ヴィンテージショップのお買い物の楽しみ方、おすすめのお店など、実践編を白澤さんに教えてもらいました! 10月24日より全5回のアップ予定ですのでぜひお楽しみに!