独立してから
無我夢中で働いた
若い日々


風:そうなんです。役者にはなれなかったけれど、いろんな女性像や世界観を作り上げて提案していくのはスタイリストの仕事でもできること。こうやってインタビューなどを受けるようになって、それを自覚するようになってからは、見よう見まねで仕事を覚えてがむしゃらに頑張りました。朝から服のリースに駆け回り、夜中まで撮影をして、終わったらまた返却の準備etc.……。今考えると毎日が壮絶でしたね。雑誌一冊のうち、ファッション企画を100ページぶん担当していたこともありましたが、そんなときは寝る時間も惜しいくらいにずっと働いていて。だから、当時の私にとって「寝る=気絶」。眠るギリギリまで目を見開いていて、限界がきたらバタリ!と倒れこむように寝るという感じでした(笑)。私はよく年末年始に入院していたんですが、それ以外にはまともに休んだという記憶がないですね。

風間ゆみえ×大草直子 対談「記憶がないほど忙しい30代があって、今がある」_img0
「20代でスタイリストになって、ただがむしゃらに働いてきたから、立ち止まって『これから何をしたいか』なんて考える余裕もなかったんです。そうしてあっという間に30代を迎えてしまった」という風間さん。旦那様に出会って休みをとる生活に変えてから、ようやく一息つけるようになってきたのだとか。


大:そんな過酷な状況で、やめようと思われたことはなかったんですか?

風:もう明日の撮影に行きたくないとかいって泣いていたことはよくあったけれど(笑)、仕事をやめたいと思ったことは一度もありませんでした。というより、次々にやってくる仕事をこなすのに必死で、やめようと思っている暇もなかったというのが本当のところ。そうまでして何のために仕事を続けていたのか?といえば、求めてくれる人がいたからかな。仕事が楽しかったからでしょう?と言われることもありますが、楽しいか楽しくないかを考える余裕すら当時はなかったんです。でも、30代半ばくらいからハードな仕事が体調に響くようになり、それ以降ペースダウンしてようやく人間らしい生活を送れるようになりました(笑)。大草さんは、スタイリストではなく編集者を目指されていたんですよね?

 

私はゴールを決めて
そこに突き進む
“逆算の女”です


大:はい。私はすでに中学生の頃にはファッション誌の編集者になることを夢見ていて、卒業文集にもそう書いていました(笑)。その当時から何か人に“伝える”仕事がしたいなと思っていたんですよね。そして、新聞記者やアナウンサーなど伝える仕事にはいろいろ種類があるけれど、私はとくに雑誌を読んだり文を書いたりすることが好きだったので、どうせならそれを媒介にできるようなものを選びたいなと。だから、大学も編集者を多く輩出しているところをリサーチし、受験に向けてまっしぐらに勉強を頑張りました。私はゴールを設定してその目標に向かって進む“逆算の女”なんです(笑)。

風:着々と目標を叶えていくというところがすごい!(笑)

大:そして無事に入学した後は、球技の部活に4年間所属していました。それも後になって考えてみると、編集者に必要なチーム作業に慣れておこうという、無意識の表れだったのかもしれないな、なんて思ったりして。そんな風に準備万端で憧れの出版社の門戸を叩いたのにも関わらず、何と最終面接で落ちてしまったんですよ。そのときの気分といったら……もう絶望感でいっぱいで、「これで私の逆算人生も終わりか」なんてね(笑)。ところがその後、どういうわけか追加枠で急に採用されることになって。しかも幸いなことに、希望していたヴァンテーヌ編集部に入ることができ、ファッション誌の編集者になりたいと思っていた中学生の頃からの夢を実現させることができたんです。そこでは企画やライティング、スタイリング、編集など一通り自分たちでやっていたので、会社を辞めてからもその仕事をそのまま続けて今に至るという感じでしょうか。ただ、気付けばスタイリングのお仕事のボリュームが増えてきた頃から、スタイリストと呼ばれるようになりましたね。

風:大草さんも、自然な流れで編集者からスタイリストになられたんですね。

大:そうですね。とはいっても、今でも私は自分からスタイリストだと名乗ったことはなく、周りにそう言っていただけるのならそうなのかなという感じで。私自身は肩書きには全くこだわっていないんです。でも、ゆみえさんの作ってくださったスタイリストブームのおかげで、私も「そういえばあの人もスタイリングをしていたよね」と皆さんに思い出していただいて(笑)、そういったお仕事をいただけるようになったんじゃないかなと。だからとてもありがたいなと思っているんです。私もゆみえさんほど過酷ではないですが、もう当時の記憶がないほど30代の頃はハードに働いていたと思う。スタイリストや編集の仕事、そして子育てに追われていつも必死で。座って朝ごはんを食べた覚えがなく、とにかくずっと動いていたという感じでしたね。自分の中ではいっぱいいっぱいだったけれど、それでもゆみえさんと同じで、この仕事をやめようと思ったことは一度もありませんでした。お互いに、自分から積極的にスタイリストの道に入ったわけではないとはいえ、やっぱりこの仕事が好きだったんでしょうね。


後編「ファッションを通して伝えたいこと」は、12月31日公開予定です。


撮影/目黒智子
 取材・文/河野真理子
 構成/大森葉子、川良咲子(編集部)