秋の紅葉シーズンが終わると、高原の別荘地はほとんど訪れる人もいなくなる。冬の間は店も開店休業の冬眠状態なので、土日のみの営業にした。が、その頃からだ。別荘地に定住している友人たちから、チラホラと気になる報告が入り始めたのは。
「営業時間なのに店が開いていないことがある」
「店の雰囲気が変わってきた」
その頃、私自身も少し気になっていることがあった。マスターのKくんには、毎日その日の営業報告をファックスするように頼んであったのだが、それが度々滞るようになっていたのだ。最初のうちは、一日の売り上げの明細以外にも、天候やどんなお客さんが来客したかなどのレポートが添えてあった。が、次第にそれはなくなり、売り上げ金額のみが走り書きされたメモが、何日かに一度、まとめて送られてくるようになっていた。
マズイ。明らかに、手を抜き始めている……というのは感じていた。しかし、その頃私は本業の締め切りに追われていたため、店に様子を見に行くことができなかった。
久しぶりに八ヶ岳を訪れたのは春になってからだったが、私は、約半年ぶりに見る店の変わりように愕然とした。
寂れている……。
素人の作った店とはいえ、以前の「わんこ物語」は、私が趣味にあかせてインテリアをコーディネイトし、ディスプレイも整えた、可愛くて温かみのある店だった。それが、どことなく雰囲気が寂れている。掃除は行き届いていないし、ディスプレイは雑。ケーキケースの中のケーキはカピカピに乾いている。
おい……。
舐められたのは自分の責任?
冬場は暇なんだから、掃除くらい念入りにしたらどうだろう?窓拭きとかストックルームの片付けとか新しいメニューの試作とか。時間のある時だからこそやれることをやってほしかった。
しかし、何カ月も雇い主の目が届かない所で、従業員が仕事のモチベーションを保つのは難しかったのだろう。ほとんどお客の来ない冬眠状態の店では、ついつい手を抜きたくなっても仕方がないのかもしれない。人任せにしすぎて、チェックを怠っていた私の失敗だ。
もちろん、全く注意も小言も言わなかったわけではない。私なりのダメ出しや提案をすることもあった。
が、「オーナーは素人だから」「現場の状況はこうなんで」と言われてしまうと、それ以上強くは言えなかった。
確かに私はカフェ経営の素人だし、普段は遠方にいて、現場の状況をわかっているわけではない……という引け目があったからだ。
正直、舐められていたのだと思う。
素人オーナーだから。
そして、言いたくはないが、女だから。
残念ながら、男女平等が建前のこの時代でも、実際には、仕事の場で女性を軽んじる男性が未だに存在しているのは事実だ。
もちろん、女性の経営者でも、男性従業員に尊敬され、信頼されて、統率力を発揮している方もいらっしゃる。
だけど、頭がお花畑のような、ぽ〜〜っとした少女漫画家の私は、Kくんにとって、頼りない存在にしか思えなかったのだろう。
私の不徳の致すところだ。
それはともかく、問題は冬の間にすっかり荒れはてた店のことだ。かき入れ時のGWを前に、どうにか立て直さなければならない!!
素人オーナーは頑張った。友人たちの手も借りて大掃除をし、ディスプレイやメニューのテコ入れもして明るく居心地のいい店にリニューアル! 2年目のGWを何とか大盛況のうちに乗り切ることができたのだった。
が、話はそこでは終わらない。
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