「社会の4分化」と「左右両極の台頭」


アメリカ国内の分断が顕著に示されたのが、2016年11月の大統領選挙だった。この年は、6月にイギリスのBrexit(EUからの離脱を決めた国民投票)もあった。

先進国の分断とは、具体的には「社会の4分化」と「左右両極の台頭」である。

20世紀の先進国は、国民は専ら中道右派と中道左派に分かれ、それぞれの意思を代弁する「2大政党」が定着していた。アメリカなら共和党と民主党、イギリスなら保守党と労働党、ドイツならCDU(キリスト教民主同盟)とSPD(社会民主党)、日本なら自民党と社会党である。

ところが21世紀に入って、グローバリゼーションが先進国に広く浸透したことで、富める者はますます富み、持たざる者はますます貧しくという経済格差が進んだ。その結果、従来型の中道右派と中道左派という「2分割」では、国民の声を拾えなくなった。そこで右派も左派も「細胞分裂」を起こして極右と極左が孵化し、これら「激しい新参者」が市民権を得ていったのである。

2016年のアメリカ大統領選挙では、「中道右派=伝統的共和党候補」も、「中道左派=伝統的民主党候補」も振るわず、代わって「極右=トランプ候補」と「極左=サンダース候補」が人気を二分した。

その結果、周知のようにアッと驚くトランプ大統領が誕生したわけだ。

だがトランプという政治家は、あくまでも「エセ右翼」であり、「本物」が出る前の「前座」のようなものだと、私は見ている。来年秋のアメリカ大統領選挙は、「極右=ペンス副大統領」vs.「極左=若いサンダース的候補」の一騎打ちとなるのではないか。

ヨーロッパの主要3ヵ国、ドイツ、フランス、イギリスで起こっていることも、大同小異である。

ドイツでは、メルケル首相が長年率いてきた中道右派政党のCDU(キリスト教民主同盟)と、伝統的な中道左派政党のSPD(社会民主党)が衰退。代わって、ネオナチのような極右のAfD(ドイツのための選択肢)と、SPDよりも左の緑の党、左翼党が伸張している。

フランスでは、中道右派の共和国前進を率いるマクロン大統領は、周知のように「黄色いベスト運動」で青色吐息である。伝統的な中道左派の社会党も振るわず、勢いがあるのは、極右のルペン率いる国民連合(RN)と、メランション率いる極左の不服従のフランスである。

イギリスでは、中道右派のメイ政権が薄氷を踏むように、3月に迫ったBrexitの作業を進めている。だが今月予定される議会承認に失敗すれば、メイ政権は崩壊し、代わって台頭して来るのは、保守党内の急進離脱派と、極左のコービン率いる労働党である。

こうした先進国に共通する「社会の4分化」と「左右両極の台頭」が、今後とも進んでいく外部条件は整っている。一例を挙げれば、今年は「5G(第5世代無線通信システム)元年」と言われ、AI(人工知能)が飛躍的に浸透していくことが見込まれるが、本格的なAI社会の到来で、主に職を奪われるのは、中間層なのである。

 

こうした「社会の4分化」と「左右両極の台頭」現象は、1930年代前半にナチスが台頭したドイツの状況と酷似している。

イギリスの戦史ノンフィクションの大家、アントニー・ビーバーは、2012に上梓した大著『第二次世界大戦 1939-45』で、ナチス台頭時の状況について、こう述べている。

「黒か白か、敵か味方かと二者択一を迫る世情は、本来が妥協を基盤とするリベラル中道路線の足下を崩していった。(中略)左右両派の知識人のなかにも、果敢な施策を一種の福音、最も英雄的な道と見るものが現われた。

財政危機にあえぐヨーロッパの大半の地域では、権威主義的な国家体制こそが、この近代的な枠組み、党派抗争の混乱に終止符を打ってくれるきわめて自然な解決策に思われ出したのである」(白水社刊同書より引用)

その結果、1930年9月に行われたドイツ総選挙で、中道政党は沈み、ヒトラー率いる極右のナチスが18.3%(12議席→107議席)を獲得し大躍進。極左の共産党も13.1%(54議席→77議席)と伸張した。以後は周知のように、ヒトラー独裁→第二次世界大戦へとまっしぐらに突き進んでいったのだ。