「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップしていきます。
今回は、デンマーク親善大使も務める行正り香さんの記事を。お金や時間、約束を大切にする点など、日本人との共通点も多いというデンマークの人々。しかし、仕事への姿勢はまったくの正反対! あくまで自分本位な働き方は、働きすぎといわれる日本人には学ぶべき部分が多そうです……。

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インテリアや料理の仕事のみならず、英語のアプリ制作など多岐にわたった仕事で活躍している行正り香(ゆきまさ・りか)さん。2児の母でありながらも起業してバリバリ働き、かつ豊かな生活を送っているライフスタイルはセンス良くスマート。料理教室や講演会を開けばすぐに満席となる人気だ。

その行正さんの生活に大きく影響を与えたのが、大手広告代理店でCMクリエイティブの仕事についていた時代に出会ったデンマークなのだという。

デンマークと言えば、「世界一幸せな国」ランキングのベスト3の常連国としても有名だ。『行正り香の家作り ヒュッゲなインテリア』をはじめデンマーク関連の書籍も刊行、デンマーク親善大使にもなった行正さんが惚れ込んだデンマークの「ゆとり」とは。

 

ランチ休憩をとらないデンマーク人


私とデンマークとの出会いは、もう20年以上も前になります。当時、私は広告代理店でクリエイティブの仕事に就き、海外向けCMを担当していました。いいなと思ったディレクターがデンマークにいたため、真冬の2月に現地まで会いに行ったのが最初でした。

そこで会ったデンマーク人の働き方や生き方から、大きな驚きと感銘を受けたのです。

ある時、デンマーク人のプロデューサーが「今日は息子の誕生日だから失礼するよ。じゃあね!」と、クライアントをはじめ関係者が全員揃っている場で帰ってしまったことがありました。日本ではありえない光景です。私は「ええっ、嘘でしょう?!」とビックリ。

けれどすぐに納得しました。彼の仕事はCMのプロデュースです。ですから、自身の仕事をベストのスタッフに任命したら、それぞれの専門家に仕事を任せるのです。次の目的を果たすべく、合理的に動いた方がいい。日本のように、「とりあえずおつきあいで残る」というような時間の無駄遣いはしないのです。

やるべき仕事をしっかり終わらせて、息子の誕生日を一緒に祝う。「どちらかのためにどちらかを諦める生活」ではないのです。

またデンマークの多くのホワイトカラーの人たちには、「残業」という概念がないと聞きました。そもそも残業代がつかないという理由もあるかとは思いますが、皆、少しでも早く帰宅するために、長いランチタイムをとらない人も多いのだそう。適当にサンドウィッチかなにかをつまんで、勤務時間内に仕事を終わらせることに集中する。デンマークでは「時間は大切なもの」という概念が浸透しているから、無駄を省いて合理的に動くという考え方になるのでしょう。

ちなみにデンマークの女性就業率は、世界でもトップレベル。スウェーデンやアイスランドでは80%を超え、女性議員の比率も約半分です。そもそも彼女たちは「結婚後も仕事を続けるのは当たり前」だと考えていますし、周囲もそうです。それには残業が少ないなど、働きやすい条件が整っていることも大きな理由としてあるでしょう。

同時に、ものすごくシビアな現実も隠されています。デンマークには終身雇用の制度がないので、常に限られた時間内で、確実に成果を出さなければ会社に残っていけません。そういう意味では、デンマークは日本以上に厳しい競争社会だと言えるのかもしれませんね。

デンマーク、コペンハーゲンの街並み Photo by iStock

 

約束・時間・お金の価値観が日本人と近い


私はデンマークの以前にも、アメリカ、イギリス、フランス、韓国、中国、タイなど、様々な国の会社と仕事をしてきました。文化が違う国との仕事はなかなか難しく、こちらが日本の感覚で信頼しすぎたりして、痛い目に遭うこともしばしば。たとえば中国との仕事では、現地へ着いてみたらクルーが撮影をボイコットして誰もいなかった、なんてこともありました。

ところがデンマーク人と仕事をしてみたら、違和感なくすべての物事がスムーズに進んでいくのです。時間、約束、お金など、大切な部分の価値観が私たちと似ている。まるで日本人と仕事をするような感覚で仕事ができる外国の方々だったのです。

皆さんご存じのようにデンマークの家具は素敵だし、街も美しい。でも私は何より、ストレスなく仕事ができる外国人に出会えたことが嬉しかったのです。この人たちとだったら、ちゃんとしたビジネスができる。価値観が近くて、参考になることが多い――。「ビジネスがしやすい」ということは、「生活していく上での価値観がどこか似ている」ということです。私がデンマークの人の暮らしぶりにどんどん惹かれたのは、そんな背景があったからだと思います。

その後、私は10年間にわたって、年に数回のペースでデンマークを訪れるようになりました。