楽をしていたらおもしろいものはできない
「性格的に、『自分は一生役者しかやらない』という考え方をつまらないと思っている。『いやいや、もっとできることはいっぱいあるでしょ』と。自分で自分の可能性を狭めたくない」
「脚本や原作や原案にも興味があるけれど、特にプロデューサーに興味がある」
なぜこの時期なのか? という疑問に対する鍵が、「人生を短く見積もると60年」という彼の人生観にある。現在が折り返し地点で残り30年と考えると、「出来ることは限られてくるから、自分から動いていかないと、死ぬまでに(全部は)できない」と言う。もちろん本業の俳優の仕事にも取り組んでいるので、山田の日々は多忙を極める。自分を奮い立たせるかのように繰り返す「楽をしていたらおもしろいものはできない」という発言が、本作のタイトル「No Pain, No Gain」になっている。
山田はカメラのこちら側にいる観客と世間話をするように、『闇金ウシジマくん』や『勇者ヨシヒコ』を「終わらせた理由」や、脚本作りやプロデューサー業の難しさ、その時に取り組んでいる役に向けての肉体改造プランや役作りの方法、音楽活動をする動機、そして自分が蒔いた種であることはもちろん承知でちょっとした愚痴などを語っている。
その一方で、カメラは山田が関わる人たちも記録していく。八嶋智人、綾野剛、内田朝陽、ムロツヨシ、清原果耶、菅田将暉、赤西仁、フジファブリックといった出役の人たちから、『デイアンドナイト』の伊藤主税プロデューサーや藤井道人監督、THE XXXXXXの音楽プロデューサーまで。特に強い印象を残すのは、山田が『デイアンドナイト』に出演をオファーした憧れの存在である安藤政信との酒を酌み交わしながらのやりとりだ。
安藤の「(自分は)20代の頃、調子に乗ってた」という一言を機に、山田は自身の「やばかった」20代について語りだす。この時期についてはテレビのトーク番組などでも「死にたかった」と語っているが、その時期についてこんなにも踏み込んで語っているのは、相手が尊敬する安藤だからだろう。
また、『デイアンドナイト』での安藤の芝居をモニターで見ながら、山田が大粒の涙を流す瞬間も印象的だ。その時期、山田はあることが原因でどん底に落ちていたが、安藤の芝居によって救われたのは間違いない。「役者という仕事の素晴らしさを教えてもらった」と、憑き物の落ちたような表情でつぶやいている。『デイアンドナイト』のストーリーや役柄は関係なく、役者の魂がこもった芝居により、人が救済される様子がこの映画にはたしかに映し出されている。
自身の活動の理由について、山田は「日本のエンターテインメントを面白くしたい」「若い人に入ってきてもらいたい」とも語っているが、彼が安藤の芝居に涙を流したシーンはまさに、エンターテインメントがなぜ人が生きるために必要なのかをキャッチした瞬間といえるだろう。
5年半の密着を締めくくる35歳の誕生日、山田は『全裸監督』の撮影現場で、実在するAV監督の村西とおるに扮し、楽しそうに笑っている。うん、やっぱり読めない!
<作品紹介>
『TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY No Pain,No Gain』
4月27日(土)より新宿シネマカリテのみ限定上映
出演:山田孝之
監督・撮影・編集:牧 有太
©2019・SDP/NPNG
※「No Pain, No Gain」Blu-ray完全版が7月1日(月)発売予定。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
- 1
- 2
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。