シンガポール国内では、育児資源をめぐる格差問題があります。現在5世帯に1世帯が外国人家事労働者を雇っていますが、世帯年収により雇える家と雇えない家があり、選択肢の格差をもたらしています。 

 

さらに、南洋工科大学のTeo You Yenn准教授は、シンガポール人に誰が子育ての支援をしてくれているかと聞くと、まず「祖母」と答える人が多く、さらに「+メイド」と答えるのが標準的な在り方だと指摘しています(Teo2010)。ここで大事なのは、あくまでも祖母が先に来て、メイドは単独ではなく「+」の選択肢だということです。

 

これはどういうことでしょうか。シンガポールの公園などでよく見かけるのが、西欧系の小さな子どもをフィリピン人やインドネシア人のメイドさんが遊ばせている光景です。でも、シンガポール人がメイドと子どもを二人きりで遊ばせていることは多くありません。

シンガポール人の子育て事情を詳しく聞き取りすると、メイドさんを雇っていても、「メイドと子どもを二人きりにはしないようにしている。私の母が監視している」「メイドはあくまで家事だけで、子どもと接するのは祖父母」というケースが多いのです。これは、子育てにはそれだけ人手がかかることの裏返しであり、また経済的側面だけではなく、祖父母の力が借りられる家庭がさらにメイドを雇うことができるという、二重の格差があることを示していると言えるでしょう。

なぜ子どもをメイドに任せないのか。ある女性は、自分自身がメイドのいる家庭で育ったことを挙げ「母や祖母がいるときと、子どもたちしかいないときでは、メイドの作る料理が明らかに違った」と話していました。またTeo准教授は人種の違い、社会的地位の低さ、価値観の違いなどから、シンガポール人が外国人家事労働者の雇用を“致し方ない選択肢”としてとらえていると言います。

以前にも書いたように、住み込みメイドの雇用制度はメイドさんへの虐待などを生むこともあり、理想的な枠組みとは言えません。この次善の解決策すらない中で、日本ではどのようにすれば働き盛り世代の子育ての負担を減らし、出生率の向上に繋げることができるのか。やはり、まずはもっとも身近な父親に育休を取ってもらうこと。この方向から進めていくほかにないだろうと思います。


参考文献:
Teo, Y., 2010, Shaping the Singapore Family, Producing the State and Society, Economy and Society, 39:3, pp.337-359.
Teo, Y.,2018, Whose Family Matters? Work-Care-Migration Regimes and Class Inequalities in Singapore, Critical Sociology, Volume: 44 issue: 7-8, pp.1133-1146.
Sun, S. H., 2009,Re-Producing Citizens: Gender, Employment, and Work-Family Balance Policies in Singapore,Journal of workplace rights, Vol. 14(3) 351-374,

 

前回記事「映画『マレフィセント2』から考える、“多様な家族のカタチ”」はこちら>>

 
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