『流行通信』から『VOGUEJAPAN』『Harper’s BAZAAR』『FIGARO japon』『SPUR』などモード誌の編集を35年にわたって手がけてきたエディターの平工京子さんが、ラグジュアリーブランドからファストファッションまで、ファッション業界の社会貢献とサステイナブルな取り組みについて紹介します。

©Adrien Dirand

9月の終わりに、パリで開催されたディオールの最新コレクション。

 

その第一報は、うっそうと木が茂った森のようなランウェイをモデルたちが歩いている写真でした。木々は整然と幾何学的に並んでいるので、人工的に配置されたものだというのがすぐわかります。

これは、ディオールと都市のランドスケープに関わるアーティスト集団、アトリエ コロコとのコラボで実現した1日限りのセット。林立した160本あまりのさまざまな種類の木は、ショー終了後、パリ郊外の何箇所かに植林されるため、すべて根元が布で覆われていました。

©DIOR

そう、このパリコレのための1日限りの森のセットは、同時に植林のための美しくも壮大なプロジェクトの始まりだったのです。木の1本1本には、白い短冊のようなタグ。このタグについているQRコードにスマートフォンをかざすと、プロジェクトの画面が現れ、その木がこれからどこへ植林されるかがわかるようになっています。

こうした事の全容が明らかになるうちに、私は大きな感動を覚えていました。


ファッション産業が長年にわたってもたらしてきた環境への悪影響について、いま、世界的に自戒の念が高まってきています。国連の発表によると、世界の温室効果ガスの10%はファッション産業からの排出。これは、大量に売れ残った衣類の焼却が主な原因とされていて、その排出量は国際航空便と海運によるものを合わせたものより多いのです。(出典:繊研新聞電子版BUISINESS INSIDER日本版



ディオールのアーティスティック ディレクター、マリア・グラッツィア・キウリは英『ガーディアン』紙のインタビューに答えて以下のように語っています。

「花やガーデンを見ると、もうただ、きれい、楽しいと言って見てはいられないのです。私たちの、未来へのあらゆる課題と、何かしら行動を起こす必要性を感じてしまうから」
(出典:The Guardian

彼女が「自分にいまできる有意義なことは何か」と、自問した末の回答が今回のプレゼンテーション。世界的なラグジュアリーブランドのデザインのトップにある彼女は、ファッション産業が環境に悪影響を与えていても「もう、ファッションはやめましょう」とは言えません。自分のできることからやる、しかないのです。それは、多かれ少なかれ、私たち自身にも当てはまることではないでしょうか。

今回のインスピレーション源となった植物標本に見入るマリア・グラッツィア・キウリ ©DIOR

「私たちは絶滅の始まりにあるというのに、あなたが話すのはお金や永続的な経済成長のことばかり」

これは16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの国連でのスピーチ。政治家や経済界に向けられたもの、とされていますが、この警鐘に、はっと目を覚ました人も多かったはず。台風や大雨による大きな被害にたびたび見舞われている私たち日本人は、環境破壊が待ったなしの問題であることがもう十分すぎるほどわかっています。

とくにファッションのジャンルで、さまざまな企業やブランドがどのような取り組みをしているのか。また、消費者である私たちには何ができるのか。ディオールが今回、挑戦した植林のプロジェクトは、そこにしっかりと意識を向けていきたいと思わせる、象徴的な出来事でした。私たちは今、贅沢や豊かさが何を意味するのかという価値観をあらためて考え直す、変化の時期に差し掛かっています。

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