仕事では理不尽なことはケンカしても伝えます


――伝えることは大変だと思いますが、誠実で理想的な仕事との向き合い方ですよね。年齢を重ねると、自分の面倒くさい部分を飼い慣らしてしまう人も多いような気がします。

インタビューでは、言葉をひとつひとつ丁寧に、内面から吐露するように答えていたともさかさん。遠くを見つめながら、自分にとってもしっくりくる答えを探している姿が印象的。
 

ともさか:長女気質で我慢してしまうのか、もちろん全然伝えられないときもあるんです。プライベートでは何でも許せるのに、お芝居に関してだけは、矜恃というか“自分の絶対譲れないところ”なんですよね。

あと許せないのは、人が理不尽な目に合うこと。意外だと言われるんですけど、“物申す担当”みたいなタイプです(笑)。今は言い方に気を付けるようになりましたが、昔はとりあえず言ってしまって、ケンカのようになることもありました。でもそういう人ともまた仕事ができているのが、ありがたい。
ドラマ『ロッカーのハナコさん』の監督の方とはお互いに若かったから「譲らない!」みたいな感じでぶつかることも多かったけど、そこから何年もたって舞台を観にきてくれて。その直後に朝ドラに呼んでくださいました。

――正直にぶつかった時期があったからこそ、築けていた信頼があったんでしょうね。

ともさか:そのときに言わないと、言わなかった言葉ばかり溜まってくんですよね。もう時間が経っているのに、いまだに寝る前とかに思い出すぐらい。
たとえばある撮影で本番直前に監督が「ともさかさん、ここ涙ありで!」って言いに来られて。その機械的な物言いがショックで私は時が止まっちゃったんですよね。監督にとっては何気ない一言だったと思うんですけど、やはり感情を表面に出すってとても難しいことだし、それはスイッチを押したら簡単にできるようなことでもないから。でもその時は何も言えず飲み込んでしまって、指示通りに涙を流したんだけど、それを受け入れてしまった自分にもショックでした。何年も前のことなんですけど、あの時の違和感を素直に伝えればよかったって今でも思います。

そういう記憶にずっと首を絞められちゃうんですよね。でも自分でも客観的になると「何がそんなに辛いの?面倒くさいな、自分」って思ったりもするんです。立ち位置は変われど40歳になるまで面白いと感じられる作品に関わってこられて、「何がダメなの?」って。でもそういう自分と向き合わなくなったら、今までやってきたことを全否定する感じがしてしまうんです。

秋色のシックなお花もアンニュイで大人っぽい表情にマッチして。

――40代になったら周りからさらに頼られて、“物申す担当”の役割が増えるかもしれないですよね。

ともさか:そんなことはないと思います(笑)。
最近、若い人と仕事をする機会が増えたんですけど、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のときにも、20年前の自分はこんなに大人じゃなかったなと思いました。みんな達観しているし、自分のやっていることに誇りを持っていて、本当にすごいな、って。

私は不安だったから背伸びをしていて、無理をすることで苦しくなるっていう悪循環に陥っていたから。あんなに楽しそうに現場にいられなかったな、素敵だな、楽しい方がいいよね、ってやっと思えるようになりました。
監督の大根仁さんとも、若い頃にご一緒していたときは相当ケンカしたので(笑)。『SUNNY』は、自分のことを一番受け入れられないのは自分だったんだ、これで良かったんだって、肩の荷が下りた作品でした。

――40代になって、仕事もさらに楽しみが増えそうですね。

ともさか:これからが楽しみだなって思えていることが、30代を迎える時と40代を迎える今の大きな違いです。
30歳になるときの期待感は楽しみとは全然違って、「30代になればきっと何かが変わるはず」っていう祈りに近い思いしかなかったんです。それまでの自分をなかったことにしたい、みたいな。
でも今は、ここまで自分がやってきたことをやっと受け入れられたのかなって思います。仕事もプライベートもずっと過去をなかったことにしたくて、でもそりゃなかったことにできないよな、って。今までのすべてが自分を作っているって思うと、目線が未来に向いている体感があります。それが大きな違いだと思いますね。

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(この記事は2019年10月12日に掲載されたものです)
撮影/田中恒太郎
スタイリング/辻直子
ヘア&メイク/北一騎
取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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